在宅看取りケアで大切にしたいこと ~訪問看護師の立場から~
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わたしは長年、緩和ケア病棟で
勤務してきました。
現在は、訪問看護ステーションで
勤務しながら地域で暮らす
高齢者や疾患を抱える方々の
支援を行っています。
在宅医療に転向してから、多くの在宅看取り
にも関わらせていただきました。
そこで、病院とは違う配慮の仕方や
機転の利かせ方が在宅看取りにおいては
必要だと感じたので、みなさんにお伝えします。
多くの喪失体験をしてきた経緯を知る
患者や家族は、病気になり、体の機能や
社会的役割の変化を体験しながら
最期のステージに関わる医療者として
私たちに出会いました。
初めて訪問した際、いままでのつらかったこと
医療者に言われて傷ついたこと、葛藤している
胸の内を話してくださることがあります。
「きいてほしい、私たちをわかっていてほしい」
そんな願いとも悲鳴ともとれる
言葉があふれだすのです。
まず「知っててほしい」
そのまっすぐな思いを受け止める。
体験をイメージして、思いを推し量る。
そんな向き合い方から
関係が始まることも多いと感じています。
信頼関係をいきなり求めず、まずは慣れる
家に人が入る、とくに、
大切な家族との最後の時間に。
みんながみんな、希望して
訪問看護師を依頼したわけではありません。
自宅で看取りをするなら必要と
説明を受け訪問看護が何か
どんな人が来て
何をするのかわからないままに
受け入れようとしてくださっている方も
たくさんいます。
いきなり、「信頼してもらおう」
と思わないことが賢明です。
自分たちが来ることに
自分たちの存在に「慣れてもらう」。
そこから関係を作っていきます。
病院のように過ごさない
退院されてきた方は
点滴の指示が朝から晩まで出ていたり
お薬がたくさん処方されていたり
することもあります。
入院中はポータブルトイレしか使っていなかった
食事はおかゆだけだった。
そんな方もおられます。
家に帰ってからは、病院から来た
情報と現状を再評価しつつ
ご本人やご家族の望む生活が送れるかを
もう一度話し合います。
かかりつけ医やケアマネジャーとも
こまめに情報交換を行い
メリット・デメリットを考えたうえで
ケアの方法を在宅で変えることもあります。
在宅ケアは、看取りケアに関わらず
「対話から導くこと」と
「機転を利かせること」が重要です。
型にはめるのではなく
医療者や介護職者自身もリソースと考えて
変容していけるチームでありたいと思います。
入ってはいけない線を見極める
在宅でのケア、とくに、看取りのケアとなると
ご本人だけではなく、ご家族の葛藤や本音にも
触れる場面が多くなります。
問題が見えると
なんとかしたくなるのが医療職の性。
看取り前には特に、人間関係も
整えたくなります。
それが決して悪いことではありません。
ただ、そんな時こそ立ち止まって
考えてほしいのです。
「本人たちはそれを望んでいるのか」
「誰のためにそれをするのか」ということを。
自分たちの思い描く
ストーリーどおりにはなりません。
その方たちの歩んできた歴史があります。
文化があります。
わたしたちはそのとっても大切な
ほんの一コマに関わらせていただいている
「謙虚さ」と「使命感」の
バランスを保つ訓練を
しなければならないと思います。
チームみんなが応援団になる
患者さんや家族は、病院という必ず医療的に
守られる場所から自宅にかえってきて
不安いっぱいです。
在宅チームの医師、看護師とは初対面となる方も
たくさんいらっしゃいます。
安心して過ごすのに必要なのは
知識や技術だけではありません。
医療者やケアマネジャー同士の良好な関係性や
スムーズな連携は、患者さんを
孤独感から解放します。
「このチームの真ん中にあなたたちがいるのですよ」
ということを、チームメンバーの態度や行動で
感じてもらうことが大切です。
人間はどこまでいっても
人と人とのつながりが
あるから生きていけるものです。
以上、訪問看護師として感じたことを
率直にまとめさせていただきました。
これは科学的根拠も何もない
現場の一人としての想いです。
また1年たつと変わっていくのかもしれない。
自分からどんな言葉が紡ぎだされるのだろうか。
そんな変わっていく自分自身にも期待しながら
日々のケアに取り組んでいきたいと思います。
次回は、訪問看護ステーションの
大切なパートナーである事務員から
「ターミナルケア加算」について
お伝えいただきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
【終末期ケア専門士】について
終末期ケアを継続して学ぶ場は決して多くありません。
これからは医療・介護・多分野で『最後まで生きる』を支援する取り組みが必要です。
時代によって変化していく終末期ケア。その中で、変わるものと変わらないもの。終末期ケアにこそ、継続した学びが不可欠です。
「終末期ケア専門士」は臨床ケアにおけるスペシャリストです。
エビデンスに基づいた終末期ケアを学び、全人的ケアの担い手として、臨床での活躍が期待される専門士を目指します。
終末期ケア、緩和ケアのスキルアップを考えている方は、ぜひ受験をご検討ください。