がん性疼痛の薬物療法(前編) ~WHOがん疼痛治療法について~

2023.6.13 JTCAゼミ

目次

執筆者:がん性疼痛看護認定看護師
榎本由佳

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はじめに

近年、我が国では、海外で承認されているオピオイド鎮痛薬の承認が進んでいます

その一例として、米国で数十年前から使用されているヒドロモルフォン塩酸塩があります。

ヒドロモルフォン塩酸塩は、日本では2017年にナルサス、ナルラピドとしてようやく承認され、モルヒネと同等の鎮痛効果があり腎機能障害のある患者にも比較的安全に投与できるという点から、オキシコドンやフェンタニルでの鎮痛が不十分な場合や、副作用のコントロールが不十分な患者に使用できる選択肢の1つとなり、がん性疼痛の薬物療法として大きな進歩となりました。

また、2021年には日本初となるがん性疼痛に対するNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の貼付剤として、ジクトルテープが販売開始となりました。

このジクトルテープは、経口摂取が徐々に減少傾向となり、内服が困難となる終末期へ向かう患者にとって、坐剤や注射より投与時の苦痛を最小限にできる投与経路であり、経皮吸収という安全かつ確実で、管理がしやすいという利点から、今後さらに期待される薬剤であると思われます。

このように、がん性疼痛の薬物療法の発展には、これまでさまざまなプロセスがありました。

これを理解するためには、やはり「WHO方式がん疼痛治療法」の理解が必要だと考えます。

ここでは「WHO方式がん疼痛治療法」についての理解と、がん性疼痛の薬物療法についての知識を深めていきたいと思います。

WHO方式がん疼痛治療法の歴史

WHO(世界保健機関)は、がん疼痛治療の普及・向上を目指すために1986年に「がんの痛みからの解放-Cancer Pain Relief-」を発表、『WHO方式がん疼痛治療法』を出版しました。

そして、1996年・2018年にそれぞれ内容が改訂され、現在では鎮痛薬によるがん疼痛治療法のスタンダードであり、がん疼痛治療に携わる医療従事者にとっては必ず学び、通る道ともいえます。

このWHO方式がん疼痛治療法の目的は、
「全世界の国々に存在するがん患者を痛みから解放すること-Cancer Pain Relief-」

がん疼痛治療法の対象者は、痛みで苦しんでいるすべてのがん患者です。

先進国だけでなく、医療が十分に行き届いていない国も対象です。そのため、世界各国で翻訳され普及が進んでいます。

 このWHOがん疼痛に関するガイドラインは、1996年以降20年以上改訂されていませんでしたが、2018年に22年ぶりに内容が改訂されました。

そこで、大きく内容が変わった部分を中心に紹介していきます。

まずは、「がん患者に対する鎮痛治療の原則」です。

この基本原則は、以下の7項目で構成されています。

この原則から、疼痛治療は緩和ケアでの一要素として、包括的なマネジメントを実践すべきであることが示されています。

①日常生活を送れる程度まで痛みを緩和する
②人によって痛みの感じ方や表現は違うので、患者の訴えに耳を傾ける
③患者、介護者、医療従事者、地域社会、社会の安全にも目を向ける
④薬物療法のほかに心理社会的およびスピリチュアルなケアも大切である
⑤鎮痛薬は入手可能かつ安価でなければならない
鎮痛薬の方法は「経口的に」「時間を決めて」「患者ごとに」「その上で細かい配慮を」
⑦鎮痛治療はがん治療の一部として統合されるべきである

2018年に改訂されたのは⑥の部分です。改定前と比べてみると、

●改訂前「鎮痛薬使用の5原則」
「経口的に(by mouth)」
「時間を決めて規則正しく(by the clock)」
「除痛ラダーに沿って効力の順に(by the ladder)」
「患者ごとに個別的な量で(for the individual)」
「その上で細かい配慮を(with attention detail)」

       ↓

●改定後「鎮痛薬使用の4原則」
「経口的に(by mouth)」
「時間を決めて規則正しく(by the clock)」
「患者ごとに個別的な量で(for the individual)」
「その上で細かい配慮を(with attention detail)」

これまでがん疼痛治療法の根幹となっていた「鎮痛薬使用の5原則」のうち「3段階除痛ラダー」が削除され、「鎮痛薬使用の4原則」に変更されました。

これまでの「3段階除痛ラダー」とは、軽度の痛みには非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs・アセトアミノフェンなど)を用い、中等度の痛みには弱オピオイド(コデインなど)の併用、強度の痛みには強オピオイド(モルヒネ・フェンタニルなど)の併用を行うという方法です。

今回の改訂で削除されたのはその有用性がなくなったのではなく、ラダーについては「教育のためのツールとしては有用であるが、がん疼痛治療のための厳格なプロトコールではない」とし、痛みの程度によってラダーに沿って鎮痛薬を決めるというよりも患者ごとの個別性を重視した疼痛治療が重要視されていることがわかります。

このように、疼痛治療も日進月歩しています。

すべてのがん患者の痛みからの解放という目的はある程度は達成できているため、これからはより個別性を重んじ、いかに「QOLを保持・向上できるか」という視点へと変化してきているのではないかと思います。

WHO方式がん疼痛治療法で用いられる鎮痛薬

WHOがん疼痛ガイドラインの鎮痛薬

  • 非オピオイド鎮痛薬
    アセトアミノフェン
    NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
  • オピオイド鎮痛薬
    コデイン
    モルヒネ
    オキシコドン
    フェンタニル
    ヒドロモルフォン
    メサドン

このリストを見たときに「あれ、トラマドールは?」と疑問に感じた方もいるのではないでしょうか。

弱オピオイドに分類されていたトラマドールは、これまで非常に曖昧な立ち位置にいました。

医療用麻薬に拒否的な患者や疼痛と抑うつが併発している患者にはまずはトラマドールを投与してみて、効果が不十分の場合は強オピオイドに移行していく、という事例も実際にありました。

しかしながら、このステップを踏んでいくよりは少量の強オピオイドを使用した方が疼痛緩和は有効かつ効率的である、といった意見もあるようです。

個人的には、ケースバイケースで1番に患者の思いを聴き、疼痛治療をどのように行っていくかを一緒に話し合うことが何よりも大切だと感じます。

        

次回の「がん性疼痛の薬物療法(後編)」では、非オピオイド鎮痛薬・オピオイド鎮痛薬それぞれの特徴や選択方法についてお伝えします。

 

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