がん性疼痛の薬物療法(後編) ~鎮痛薬の特徴と選択方法~|一般社団法人日本終末期ケア協会

がん性疼痛の薬物療法(後編) ~鎮痛薬の特徴と選択方法~

2023.6.26 JTCAゼミ

目次

執筆者 がん性疼痛看護認定看護師
榎本由佳

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非オピオイド鎮痛薬の特徴と選択方法

非オピオイド鎮痛薬の代表的な薬剤には、アセトアミノフェンとNSAIDsがあります。

この2つの鎮痛薬の大きな違いは、抗炎症作用の有無です。

アセトアミノフェンは、抗炎症作用はありませんが、作用機序として視床下部の体温中枢に作用し、熱放散(血管や汗腺を広げることで体外へ熱を逃がすこと)を増大させるため非常に優れた解熱作用があります。

鎮痛の作用機序に関しては、中枢神経において痛みの伝達を阻害すると考えられていますが、詳細な鎮痛の機序はいまだに解明されていません。

一方、NSAIDsには抗炎症作用があります。

痛みの素(もと)になる炎症には、プロスタグランジン(PG)が大きく関与しています。

PGはシクロオキシゲナーゼ(COX)と呼ばれる酵素によって生成されます。

NSAIDsは、COXを阻害する作用によってPGの生成を抑制することから痛みを緩和させます。

それでは、この2種類の非オピオイド鎮痛薬を実臨床ではどのように使い分けしているのでしょうか。

使い分けをおこなう主な理由は、副作用です。

皆さんもご存知の通り、NSAIDsには消化管への影響や腎機能障害、出血傾向などの副作用があります。

元々消化管潰瘍がある場合や高齢者、腎機能が低下している透析患者などには積極的にNSAIDsは使用しません。

こういった場合は、ほとんどがアセトアミノフェンを選択します。

しかしながら、骨転移痛などでNSAIDsが有効で、長期間投与が予測される場合は、NSAIDsの中でも副作用が比較的少ないCOX-2選択的阻害薬を用いることがあります。

これらの副作用対策として、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーなどの消化管潰瘍を予防する薬剤を併用したり、高齢者や腎機能障害のある場合はあらかじめ投与量を減量するなどの工夫が可能です。

NSAIDsについては、リスクを懸念しすぎて疼痛緩和が後回しにならないよう作用と副作用をしっかりと理解しておくことが重要です。

また、アセトアミノフェンの副作用については、高用量の投与で肝機能障害が出現する可能性があるので、定期的にモニタリングをする必要があります。

前述したようにアセトアミノフェンとNSAIDsでは作用機序が異なるため、発熱と痛みがどちらも出現しているときなどは両者を併用することもあります。

オピオイド鎮痛薬の特徴と選択方法

2018年に改訂されたWHOがん疼痛ガイドラインで用いられるオピオイド鎮痛薬は、以下の通り6種類あります。

WHOがん疼痛治療法については、「がん性疼痛の薬物療法(前編)」を参照してください。

この他に、日本で使用されているオピオイド鎮痛薬にはタペンタドールやブプレノルフィンがあります。

  • コデイン
  • モルヒネ
  • オキシコドン
  • フェンタニル
  • メサドン
  • ヒドロモルフォン

オピオイド鎮痛薬とは、体内に分布する特定のオピオイド受容体に結合することで鎮痛作用をもたらす薬剤を指します。

コデインは弱オピオイドとして、主に鎮痛よりは鎮咳が必要なときに用いられます。

モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルは長年にわたり日本でもがん性疼痛治療に使用されてきました。

メサドンは、オピオイド受容体に作用するとともにNMDA受容体拮抗作用も有している鎮痛薬で、2013年頃から日本でも使用されるようになりました。

しかし、経口モルヒネ換算量で1日60mg未満での投与は推奨されないことや初回投与後や増量後少なくとも7日間は増量を行わないことが原則にあるうえ、重篤な副作用としてQT延長、他のオピオイドと比較して呼吸抑制の頻度が高いということもあり、安全性の観点から心電図モニター装着下での使用が勧められており、外来や緩和ケア病棟での投与はあまり進んでいないように思います。

ヒドロモルフォンは、2017年に国内承認され、経口の徐放製剤、速放製剤、注射薬と剤形が豊富で、呼吸困難に対しても有効です。

また、モルヒネと同等の鎮痛効果があり腎機能障害のある患者にも比較的安全に投与できるという点から、オキシコドンやフェンタニルでの鎮痛が不十分な場合や、オピオイドによる副作用のコントロールが不十分な患者へのオピオイドの選択肢が広がったといえます。

それぞれのオピオイドの選択方法ですが、個人的に、最近はヒドロモルフォンが第一選択として選ばれることが多くなったと感じます。

腎機能低下していても副作用の眠気がモルヒネよりも軽いという実感があります。

そのため、疼痛は緩和されたけど不快な眠気で結局何もできない、というQOLに支障を及ぼすことも減ったように思います。

また、オピオイドの副作用で1番多いのは便秘です。

オピオイドによる便秘は耐性形成しませんので、必ず起こります。

ヒドロモルフォン、モルヒネ、オキシコドンでの便秘の頻度は同等とされていますので、消化器系のがんやイレウスの可能性が高い場合は、フェンタニルを選択するのが無難です。

しかし、完全閉塞したイレウスでの疝痛に対しては、フェンタニルよりも鎮痛効果が高いモルヒネまたはヒドロモルフォンを選択することがあります。

おわりに

がん性疼痛の薬物療法は、各々の鎮痛薬のメリット・デメリットをしっかりと理解することが大切です。

また、痛みは患者自身にしかわからない主観的な症状です。

医療者だけですすめていくものではありません。

疼痛緩和に向けて患者が取り組みやすく、その患者に適した鎮痛薬を選択し、管理しやすいようにシンプルにしておくことも重要です。

がんの症状コントロールは、ただでさえ多剤になりがちです。

内服すること自体が苦痛になっていないか、不必要な薬剤を漫然と継続していないか、医師や薬剤師と協議していくことは看護師の大きな役割であると思います。

私たちにできることは何かを考え、いつでも最善を尽くしてケアしていきましょう。

 

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