看取り期の家族への声かけ|一般社団法人日本終末期ケア協会

看取り期の家族への声かけ

2023.2.28 JTCAゼミ

目次

執筆者:おかもと訪問看護ステーション
がん看護専門看護師 宮武 佳菜枝

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はじめに

みなさんは看取り期にある患者さんや
利用者さんのご家族に対して
どのようなお声がけをされていますか?

なんとお声をかけてよいのか分からず
苦手意識のある方、
またはご自身の経験から積極的に
お声をかけておられる方、
いろんな方が今この文章を
読んでくださっていると想像しています。

私自身、緩和ケアに関わりだしてから
15年が過ぎようとしており
この間で看取りにかかわらせていただいた
患者さんや利用者さんは
数えきれないくらいいます。

こんなに長く緩和ケアに関わっていても
実は看取り期にあるご家族への
お声がけに確立したものを持っていません。
というか
確立できない、マニュアル化できない
というのが本当のところかもしれません。

また私事ですが実際父や祖母を亡くした時の
ことを思いだしてみても、医療従事者の方が
なんとお声をかけてくださったかを
覚えていないんです。
きっとこれは個人差も大きいと思いますが
私の場合は、話してくださった内容よりも
その医療従事者の方々の
雰囲気や印象の方が記憶に深く残っています。

「先生は忙しそうだったけど
私と向き合って目を見てお話してくださったな」
とか
「地域連携の方は
本当に親身になってくださったな」
とか

なので、私はまずはお声がけする前の
自分の雰囲気を大切にしています。
あたたかみのある、ゆったりとした雰囲気を
内心とても急いでいたとしてもです。
(まだまだ力不足で反省することも多々ありますが…。)
この機会にみなさんも、ぜひお声がけする前の
自分はどんな様子(表情、姿勢、しぐさ、身だしなみ等)かな?
と振り返っていただけたらと思います。

家族のニーズを満たす

前置きが長くなってしまいましたが
本題にはいりたいと思います。

みなさんは
「終末期患者の家族のもつ10のニーズ」
(鈴木志津枝:家族がたどる心理的プロセスとニーズ、家族看護、Vol1、No2、P35~42、2003)
をご存じでしょうか。

①患者の状態を知りたい

②患者のそばにいたい

③患者の役に立ちたい

④感情を表出したい

⑤医療者から受容と支持を慰めを得たい

⑥患者の安楽を保証してほしい

⑦家族員より慰めと支持を得たい

⑧死期が近づいてきたことを知りたい

⑨夫婦間(患者―家族間)で対話の時間を持ちたい

⑩自分自身を保ちたい

私はご家族とお話する際は
いつもこの10のニーズを思い出しながら
お声がけしたり、ケアをしたりしています。

例えば②の「患者のそばにいたい」では
ご自宅ではあまりないかもしれませんが
病院ではご家族がベッドの周囲に
立ち尽くしているという場面を
何度もみたことがあります。

ご家族の中には、近寄って
何か迷惑をかけてはいけないと思われる方も
いらっしゃいます。
そのようなご家族には、そばによって
いただいて構わないことをお声がけします。

また実際椅子をベッドサイドに置いておくと
自然と座られます。
これはご施設でも同様かもしれませんし
ご自宅ではベッドの横に座布団を敷いておくと
椅子と同様に自然に座られることが多いです。

また④の「感情を表出したい」では、
家族は第2の患者といわれるように
ご家族は多くの苦悩を抱え込んで
おられることがあります。

不安、抑うつ、不眠、倦怠感は家族に
高頻度にみられる症状といわれており
家族のうつ病を含めた
抑うつの有病率は40~60%という
報告が多いです。

そのため、まずはご家族が
素直な気持ちを表出できるような
お声がけを心がけます。

私の場合
「最近〇〇さん(ご家族の名前)の体調はいかがですか?」
と体調を確認し(必要時はバイタルサインも測定します )
その上で心配なことをお聞きしています。
この時「家族の体調も気にかけてくださるんですね…」
と涙されるご家族もおられ
ここから会話が深まっていくこともあります。

ここでなぜご家族の体調を
まず確認するかですが
以前緩和ケア病棟で勤務していた時に
付き添い用のベッドを利用し
お付き添いされていたご家族(ご主人様)が
亡くなっていたということがありました。

よくよく他のご家族から話をお伺いすると
高血圧と糖尿病の既往があるご主人様でしたが
毎日奥様の付き添いをされていたこともあり
ご自身の通院ができなくなり
服薬治療が中断されていたようです。

このことが直接亡くなられた原因に
なったのかはわかりませんが
私はこの経験から必ず
ご家族の体調を確認するとともに、
服薬治療をされている方は
通院ができているか
お薬は服用できているかも
お伺いするようにしています。

この10のニーズを思い出しながら
ご家族とお話していただくことにより
ご家族との会話が深まり
信頼関係の構築へとつながります。

そしてなによりニーズが満たされることで
残される家族へのケアになると考えています。

また、みなさんは「自然な看取り」とは
どのような看取りを想像しますか?
点滴や注入、酸素吸入等の医療処置を
一切しない看取りが
「自然な看取り」でしょうか。

おそらく、医療介護従事者の考える
「自然な看取り」とみなさんの目の前にいる
それぞれのご家族の思う「自然な看取り」
にはギャップがあるのではないかと思います。

私の経験からですが、多くの家族は
食べられなくなったら点滴すると
考えておられる方が
多いのではないかと思います。

きっと看取り期になり食事や水分が
摂れなくなってきた時に
点滴をせずに見守ることは、
本人の寿命を縮めているのではないかと
不安になられるからだと思います。

以前、ご本人とご家族から
「自然に看取りたいです」という
ご希望があり在宅療養をされていた方が
いらっしゃいました。

いよいよ看取り期になり
介入当初から「自然な看取り」を
希望されていたため
このまま医療的な処置はせず
見守っていこうと思っていた矢先に
ご家族から「食べられなくなったので
点滴をしてほしいです」
とお話がありました。

えっ?と一瞬感じたのですが
「自然な看取り」と一言でいっても
それぞれの「自然な看取り」に対する
認識には違いがあるということに
遅ればせながら気が付きました。

このご家族は点滴と酸素投与は
「自然な看取り」と考えておられました。

この認識の違いをそのままにしておくと
のちの家族のグリーフにも
影響を与えかねません。

ご本人やご家族がどのような最期を
望んでいるかを聞かせていただき
治療やケアに結び付けることが
重要と考えています。

点滴をするしない論争になるのではなく
ご本人ご家族に
点滴のメリットデメリットを説明し
みんなが納得する方針を
見出していただけたらと思います。

さいごに

ここまで読んでくださりありがとうございます。
多くの方は
「で、結局どのような声かけをすればいいのかわからないです」
と思われているかもしれません。
最初にお伝えしていましたが、看取り期にある
ご家族へのお声がけは千差万別であり
マニュアル化は難しいと思っています。

そのため看取り期にある患者さんや
利用者さんそしてそのご家族と向き合う
準備ともいえる、自分自身の姿勢、
態度、しぐさ、身だしなみ等の雰囲気を
整えること
がまずは大切だと考えています。

その上で終末期患者の家族の
10のニーズを思い出しながら
家族のニーズを満たすことができるような
配慮やケアを行うことが、自然な声かけに
つながるのではと考えています。

実際手を動かしながらの方が
自然に会話ができるということはありませんか?
お声がけに苦手意識のある方も
きっとケアは得意!という方が
多いのではないかと思います。

看取り期の家族への関わりは
声かけだけではありません。
ぜひご自身の得意なことから
始めてみてください。

多くの方を看取らせていただいていますが、
今でも毎回毎回
「あの時こうしとけばよかったかな」と
後悔ばかりです。

でも緩和ケアが好きで仕方ないのは
マニュアル化できない人と人との深い関わり
そして一期一会の出会いがあるからだと
日々実感しています。

みなさんもかけがえのない出会いを
大切にしていただき、みんなで終末期ケアに
取り組んでいけたらと思います。

 

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