死前喘鳴(ぜんめい)に対するケア~いびき様の呼吸音が強いときのケア~|一般社団法人日本終末期ケア協会

死前喘鳴(ぜんめい)に対するケア~いびき様の呼吸音が強いときのケア~

2021.9.29 JTCAゼミ

目次

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1.死前喘鳴とは

死前喘鳴(しぜんぜんめい)とは、死亡直前(死亡数時間前から数日前)に生じ、吸気時と呼気時に咽頭や喉頭部の分泌物が振動して起こるゼーゼーという呼吸音のことであり、気道内分泌物の貯留により生じます。

終末期のがん患者では40~70%に生じるとされており、家族の80%が苦痛を体験しているといわれています。
死前喘鳴に対するケアについては、現在のところ十分なエビデンスが得られていません。

2.見守ることがつらく感じる喘鳴

・喘鳴の音が大きい場合
・喘鳴の持続時間が長い場合

などでは、家族はそばで見守ることがつらくなります。

そのため、家族から「なんとかならないでしょうか」「苦しくないのでしょうか」という相談を受けることが多くなります。
看取りが近いことが予測され、患者の意識レベルが低下していても、苦痛が強いのではないかと感じていることが少なくありません。

それは家族の心理状態として当然の反応であり、家族が死前喘鳴に対してどのように感じているのか確認しましょう。

3.死前喘鳴のケアのポイント

死前喘鳴のケアには、主に薬物療法、輸液の減量、ケア(非薬物療法)があります。

薬物療法(ハイスコ、ブスコパンを使用)

ブスコパン(20㎎/A)1A静注・皮下注またはハイスコ(0.5mg/A)0.5A舌下・皮下注、30分以上あけて1日3回まで反復可、とされています。
しかしながら、ハイスコには鎮静作用があるため、意識レベルがさらに低下する可能性があることを投与前に家族に伝えておく必要があります。また、ブスコパンは鎮静作用がないため意識レベルに影響はありませんが、頻脈や強い口渇、喀痰の粘稠性が増強する可能性があります。

輸液の減量

できるだけ限り輸液量は1000~500ml/日以下に減量することが望ましいとされています。輸液量を減らすことで喘鳴が改善することもあるので、医師との相談が必要です。

ケア(非薬物療法)

体位変換:特にいびき様の呼吸音が強い場合は、体位変換が有効である場合があります。側臥位にして頭の位置を高くするなどの位置調整をすることで、喘鳴が軽減することがあります。
口腔ケア:そばで見守っている多くのご家族が、喘鳴とともに口腔内の臭いも気になっています。終末期は唾液の分泌が低下し、口腔内乾燥から口臭を引き起こす場合や肝疾患の方ではアンモニア臭がすることもあるため、丁寧な口腔ケアが大切です。
吸引:吸引の実施については、吸引自体が呼吸状態を不安定にさせる処置になる可能性があるので、全身状態のアセスメントが重要です。多くの場合は、吸引チューブが届かないより奥の方に気道内分泌が貯留しているため、吸引をしても喘鳴が改善することが難しいのです。状態が不安定で吸引は控えた方がよいのですが、家族が吸引を希望する場合もあります。そんな時は、その状況を説明したうえで、咽頭のみ吸引を行うこともあります。「痰がとれたかどうか」ではなく、家族にとっては「気持ちを分かってもらえた」「できることをしてもらえた」という思いが家族のケアにつながっていきます。

4.家族に対するケア

死前喘鳴については、多くの家族が苦痛を感じています。終末期に携わる私たちには、患者へのケアとともに家族に対するケアも求められています。しかし、一体なにから行っていけばよいのでしょうか。以下にポイントをまとめました。

・家族が死前喘鳴をどのように理解しているかを確認する
「そばで見ていて、どのように感じますか?」など、家族の思いを確認し、死前喘鳴に対してどのように理解しているのかを把握することが大切です。

・喘鳴について理解できるように説明する
溺れているわけではないこと、意識レベルが低下している患者は、家族が思っているほど苦痛を感じていないことが多いなど、患者が苦しんでいるかどうかの見極め(手を握りしめる、眉間にしわを寄せるなど)が大切であることを伝えることが重要です。

・ 家族の思いを確認するためのコミュニケーションの具体例
「このゴロゴロした音は、喘鳴といいます。多くの方に見られる症状の一つで、お別れが近くなった時にみられる自然な変化です。」
「唾液を飲み込む力がなくなるために、唾液がたまってしまいます。そのためにゴロゴロという音がします。」
(意識レベルが低下している場合は)「ご本人は、私たちが思うほど苦痛は感じていませんので安心してください。」
「苦しい時には顔をしかめることが増えるなどの変化があります。それを一緒にみていきましょう」

おわりに

死前喘鳴は、亡くなる前に出現する頻度の高い現象のひとつです。これは「症状」ではなく、あくまで亡くなる前の「現象」であり、ごく自然なことであるという認識を持つことが大切であると思います。一方、呼吸器疾患などによって長期間持続する場合や、患者本人が苦痛を感じている場合は、家族も同様に強い苦痛を感じているため、より丁寧な説明と対応が必要です。患者・家族が抱える苦痛を軽減するためには、私たちが心のこもったケアを提供し、家族も寄り添ってもらえたと思えることだと思います。私たちにできることは何かを考え、いつでも最善を尽くしていきましょう!

【参考文献】
・ 木澤義之他,3ステップ実践緩和ケア,青梅社,2013
・ 清水陽一,死前喘鳴を生じた終末期がん患者の家族に対する望ましいケア(J-HOPEより)
・ 聖隷三方原病院症状緩和ガイド,死前喘鳴(たんがごろごろするとき)
http://www.seirei.or.jp/mikatahara/doc_kanwa/contents6/33.html

喘鳴以外の臨終前症状については、こちらのブログをご覧ください。

緩和ケアに携わる看護師の役割~家族支援~

 

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