終末期にある患者の看護計画の立案と特徴~患者のQOL維持・向上を目指したプランニング~
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記事執筆:日本終末期ケア協会アドバイザー
がん性疼痛認定看護師
榎本由佳
終末期患者の看護計画の特徴
人生の最終段階を迎える終末期患者と家族へのケアは、終末期ケア(ターミナルケア)と呼ばれ、
患者が自分の人生を「自分らしく」最期まで生きぬくために、これまでの生き方やその人が大切にしてきたこと、
そして個々の価値観を尊重した看護介入が求められます。
こういった個別性の高い看護を提供するためには、他の病期よりもさらに患者・家族参加型であること、
症状緩和を基本とした看護問題の抽出、より具体性のある目標の設定と計画の立案が必要です。
また、病気を治すことや機能を回復させることよりも、QOLを重要視する視点をもつことも大きな特徴ではないかと思います。
患者・家族参加型の意味
どの病期にあっても患者・家族参加型であることは必要ですが、特に終末期にある患者・家族は、余命宣告を受け、
残された時間をどのように過ごしたいのか、などシビアな現実に直面しており、患者だけでなく家族も動揺しています。
そのため、看護としての問題・目標・計画を患者・家族とともに立案し、旅立つその日まで患者・家族の希望を支えていくことが大切です。
また、終末期看護でポイントとなるのは、「症状緩和」と「QOLの保持・向上」です。
この視点は、終末期ケアを担う看護師にとって最も重要な使命であると思います。
終末期でよくみられる苦痛症状には、痛みや全身倦怠感などがあります。
これらの苦痛症状は、主観的なものであり他人が完全に理解することは難しいとされています。
そのため、患者の訴えに丁寧に耳を傾け、全身状態をアセスメントし、
患者の思いや希望が詰まった個別性の高い看護計画を患者・家族と一緒に立案していく必要があります。
緩和ケアでのQOLについては、こちらの記事に詳しく記載していますので合わせてご覧ください。
目標設定時のポイント
患者の訴えや全身状態のアセスメントから看護問題が抽出されると、それぞれの看護問題に対する目標を設定する必要があります。
できれば、短期目標と長期目標どちらも設定するとより目標が明確になり、評価も行いやすくなります。
この目標設定の際は、患者・家族と話し合って目標を決めるとよいでしょう。
例えば、「身体的苦痛の緩和」を短期目標としたとき、
長期目標として「温泉旅行にいく」、「娘の結婚式に出席する」、「自分でお風呂に入ることができる」など、
症状が緩和したのち、どんなことをしたいかを言語化して医師、看護師、薬剤師、
リハビリスタッフ、介護士などの多職種チームで共有することが重要です。
また、予後予測をふまえ、いつまでに達成したいと考えているかなど具体的な評価日を設定することで、
そこに向かってチームで取り組んでいくことが可能となります。
終末期でよく使われる標準看護計画立案の例
身体的苦痛に対する看護計画:痛み
#急性疼痛および慢性疼痛
■短期目標(例)
・夜間の睡眠が、痛みで阻害されない。
・安静時の疼痛が緩和できる。
・痛みの増強なくトイレまで行くことができる。
・不安や恐怖を表出できる。
■長期目標(例)
・1日1回は散歩に出かける。
・〇月〇日に旅行にいく。
・花見をする。
・〇月〇日に○○と食事にいく。
看護計画
O-P(観察項目)
- バイタルサイン
- 血液検査、画像検査
- 表情(苦悶様、無表情など)
- 睡眠状態
- 痛みに対する言動
- 病状への理解度
- 痛みの部位
- 痛みの性状
- 安静時/体動時の痛みの程度(NRS、VAS、FSなど)
- 痛みのパターン
- 痛みの増悪因子・緩和因子
- 食欲の有無
- 悪心・嘔吐の有無
- 便秘の有無
- 鎮痛薬の効果
- レスキュー・ドーズの使用回数
- オピオイド使用による副作用出現の有無
- 日常生活への支障
- 家族との関係
T-P(ケア計画)
- 医師の指示に従い、医療用麻薬などの鎮痛薬を適正に投与・管理する。
- 医師や薬剤師と情報共有を行い、鎮痛薬の量調整、患者に適した投与経路の確認、副作用対策を行う。
- 患者に鎮痛薬についての思いを確認する。
- 排便コントロールを行う。
- 食事が摂りにくい場合は、食事形態の工夫を行う。
- ポジショニングを行い、安楽な体位をとる。
- 患者の言葉を傾聴し、支持的な態度で接する。
- タッチングやマッサージを行う。
- 気分転換ができるようにする。
- 好きなことが楽しめる環境を調整する。
- 家族への言葉かけを行う。
E-P(教育計画)
- 痛みの出現時は必ず看護師に伝えるように指導する。
- レスキュー・ドーズの使用のタイミングを患者と一緒に考え、予測できる痛みの前にレスキューを使用できるようにセルフケアを促す。
- 医療用麻薬に対して、中毒性があるから使用したくないなどの誤解がある場合は、正しい知識を伝える。(患者だけでなく家族にも説明する)
- 病状や全身状態、予後などの情報を患者・家族と共有し、医療者との認識のずれが生じないようにする。
- 患者・家族に心配なことや困っていることがあれば、看護師に相談するように指導する。
身体的苦痛に対する看護計画:全身倦怠感
#倦怠感に伴うADL・QOLの低下
■短期目標(例)
・倦怠感が軽減できる。
・休息と活動のバランスをとることができる。
■長期目標(例)
・自宅に外泊する。
・○○へ買い物に行く。
・毎朝新聞を読めるようになる。
・もう一度趣味を楽しめるようになりたい。
看護計画
O-P(観察項目)
- バイタルサイン
- 意識レベル
- 睡眠状態
- 経口摂取の状況
- 食欲の有無
- 他の苦痛症状の有無と程度
- ADLの変化
- 精神症状の変化
- 言動や表情
- 興味の減退
- 活気の有無
T-P(ケア計画)
- 倦怠感の程度を把握する。
- 倦怠感のパターンを把握し、活動と休息を効率的にとる。
- 痛みなどその他の身体的苦痛をコントロールする。
- 全身状態に合わせてステロイドの使用を検討する。
- 不眠の場合は、抗不安薬や眠剤の使用を検討する。
- 日中に軽い運動を取り入れる。
- 安楽な体位の調整を行う。
- ADLに応じてベッドサイドの環境調整を行う。
- 摂取しやすい食事形態や内容に変更する。
- 入浴、清拭、洗髪、足浴、手浴などできるだけ清潔を保持する。
- 肩や腰、腹部などに温罨法を行う。
- 指圧、マッサージを行う。
- 患者の言葉を傾聴し、支持的な態度で接する。
E-P(教育計画)
- 患者自身にどんなことが倦怠感の緩和につながるか把握してもらい、できるだけセルフケアができるように指導する。
- 患者に安楽な体位をみつけてもらい、休息がとれるように指導する。
- NRSなどのスケールを用いて、倦怠感の程度が伝えられるように指導する。
- 患者に倦怠感のパターンを把握してもらい、倦怠感の程度に合わせた活動ができるように指導する。
- 家族にマッサージなどの方法を指導し、家族もケアに参加できるようにする。
- 患者・家族に心配なことや困っていることがあれば、看護師に相談するように指導する。
精神的苦痛に対する看護計画:せん妄
#急性混乱
■看護目標(例):せん妄症状の緩和を図り、穏やかに過ごすことができる。
看護計画
O-P(観察項目)
- バイタルサイン
- 見当識障害の有無
- 言語・表情・コミュニケーション・行動
- 発熱・脱水・血液データの異常の有無
- 認知機能低下の有無・程度
- 排尿・排便の状況
- 本来の性格
- オピオイドやステロイドの使用状況と副作用
- 痛みの有無・程度
- 昼夜の睡眠状況
- 幻覚・妄想の有無
- 抑うつの状態
- 家族の面会状況、面会時の反応
- 入院前の生活環境、家族関係
T-P(ケア計画)
- 意識状態の日内変動や興奮性・易怒性の状況を把握し、過活動型・低活動型・混合型せん妄のうちどれに分類されるかアセスメントする。
- せん妄症状緩和に対する薬物療法(向精神病薬等)の効果を評価する。
- 夜間にせん妄症状が増強する場合、日中覚醒を促し、睡眠リズムを整える。
- 家族と面会できる環境をつくる。
- 家族の写真や愛用品などを置いて環境整備する。
- 時計やカレンダーなど日時や時間がわかるものを置く。
- 転倒転落を予防する。
- ベッド周囲の環境整備に努める。
- ルート類による体動制限を最小限にする。
- 必要時は疼痛コントロールを行う。
- 排便コントロールを行う。
- 照明を暗くする、トイレへ誘導する、消灯の声かけなど、入眠への準備を行う。
- 夜間睡眠確保のために眠剤の調整を行う。
- 目線をあわせて、落ちついたトーンで話しかける。
E-P(教育計画)
- 家族に終末期せん妄の概要を説明し、患者との関わり方を指導する。
スピリチュアルペインに対する看護計画
#スピリチュアルペインによる人生の意味や目的の喪失
■看護目標(例):スピリチュアルペインが表出できる。
看護計画
O-P(観察項目)
- 言動や表情
- ADL状況
- 身体的苦痛となっている症状(疼痛、呼吸困難感、嘔気嘔吐、全身倦怠感など)
- 精神的苦痛となっている症状(不眠、抑うつ、不安など)
- 社会的苦痛の有無(役割の喪失、社会的孤立)
- 信仰の有無
- 家族関係
- ボディイメージの変化
- 価値観
- 孤独感
- 死への恐怖
T-P(ケア計画)
- 患者の思いを傾聴し、感情の表出をサポートする。
- 患者の病気や症状に対するコーピング方法を知り、促進する。
- 苦痛症状がある場合は、積極的に緩和する。
- 家族や友人と過ごせる時間をつくる。
- 患者がくつろげる空間をつくる。
- ライフレビュー(自分史)を作成する。
- チャプレンなどの専門家に介入を依頼する。
E-P(教育計画)
- リラクセーションの方法を伝える。
- いつでも医療者に感情を表出してよいことを伝える。
終末期患者の家族ケアに関する看護計画
#家族の役割緊張(リスク状態)
■看護目標(例)
・家族が看取りのプロセスを理解できる。
・家族が不安、疑問、想いを表出することができる。
看護計画
O-P(観察項目)
- 家族構成(家族成員の性、年齢、同居・別居、居住地)
- 家族成員の年齢
- 家族成員それぞれの職業
- キーパーソン
- 家族成員の健康状態(身体面、精神面)
- 家族間のコミュニケーション(会話の量、スキンシップ、ユーモア)
- 役割分担の状況
- 家族内の協力体制
- 家族内の情緒的な関係性(愛着・反発、関心・無関心など)
- 家族の価値観(信仰の有無など)
- 経済的状況
- ケアなどの技術を習得する力
- 住宅環境
- 地域環境(交通の便、保健福祉サービス状況)
T-P(ケア計画)
- 家族の身体的負担(介護疲労、持病の悪化)、精神的負担(緊張、不安、抑うつ、不眠)に配慮する。
- キーパーソンに介護が集中している場合は、休息を促し、他の家族成員に支援を求めるように促す。
- 悲嘆へのサポートを行う。
- 家族がケアに参加できるように工夫する。
- 代理意思決定の支援。
- 状態を説明するときは、わかりやすい言葉を使う。
- 病状説明時はキーパーソンだけでなく、他の家族成員も一緒に面談できるよう調整する。
- 患者との時間をゆっくりと過ごせるように環境を調整する。
- 付き添い中の場合は、家族が食事時間の確保やシャワー・入浴ができるよう配慮する。
- 親戚や友人など患者が会いたい人、家族が会わせたい人がいないか確認する。
E-P(教育計画)
- 看取りのパンフレット等を用いて今後予測される看取りまでの経過を説明する。
- 残された時間を患者とどのように過ごしていきたいか、家族が主体性をもって実行できるように助言をする。
おわりに
終末期にある患者の看護計画立案の具体例と特徴についてご紹介しました。
より個別性のある終末期ケアを実践していくためには、患者の「最期までどう生きたいか」という希望を見出し、
患者の価値観や人生観を十分に理解したうえで意思決定を尊重した包括的な看護を提供することが必要です。
そして、患者・家族の意向をしっかりと把握し、標準看護計画を個々の患者ごとにカスタマイズしながら
計画性をもって看護実践と評価を繰り返し、目標を達成していくことがQOLの維持・向上につながるのではないかと思います。
終末期の患者は日々状態が変化します。看護計画をしっかりと立てておくことで、患者がやり残したこと、
家族や大切な人と話しておきたいこと、家族が話したいこと、会いたい人など、
患者がいなくなったあと遺された人の後悔を少しでも小さくするというグリーフケアにもつながると思いますので、
是非実践してみてほしいと思います。
【終末期ケア専門士】について
終末期ケアを継続して学ぶ場は決して多くありません。
これからは医療・介護・多分野で『最後まで生きる』を支援する取り組みが必要です。
時代によって変化していく終末期ケア。その中で、変わるものと変わらないもの。終末期ケアにこそ、継続した学びが不可欠です。
「終末期ケア専門士」は臨床ケアにおけるスペシャリストです。
エビデンスに基づいた終末期ケアを学び、全人的ケアの担い手として、臨床での活躍が期待される専門士を目指します。
終末期ケア、緩和ケアのスキルアップを考えている方は、ぜひ受験をご検討ください。