SpO₂は保たれているのに「苦しい」と訴えるのはなぜか?数値だけでは判断できない呼吸困難の考え方
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はじめに
日常の臨床では、
SpO₂の値は保たれているにもかかわらず、
患者さんから「苦しい」「息がつらい」と訴えられる場面があります。
数値上は大きな異常が見られないため、
「何が起きているのだろうか」
「どう対応するのが望ましいのだろうか」
と判断に迷うことも少なくありません。
本記事では、
日本終末期ケア協会主催オンラインセミナー「学びLabo」で実際に寄せられた質問に対し、
理学療法士・秋保光利先生が
後日あらためて回答してくださった内容を、
解釈や要約を加えず、そのまま掲載します。
今回の回答について
本記事は、セミナーに寄せられた質問に対し、
理学療法士・秋保光利先生が、後日あらためて回答してくださった内容をもとに構成しています。
質問は特定の場面を想定したものでしたが、
その回答は、
急性期・慢性期・終末期などを問わず、
臨床の現場で共通して考えるべき視点として示されています。
ご注意
本記事で紹介する内容は、考え方や視点の共有を目的としたものです。
実際の対応にあたっては、
患者さんの状態や医師の指示、所属施設・地域のルールを踏まえて判断してください。
質問①
SpO₂の値は良いのに「苦しい」と仰る方がいます。どのような対応がのぞましいのでしょうか?
回答
確かにSpO2が良好でも「苦しい」と感じるのはよくあることです。
その主な理由には 以下が考えられます
呼吸回数の増加(過換気)
血中酸素飽和度は足りていても、
低酸素状態(低酸素血症ではなく低酸素症)となっていたり、
何らかの原因で換気亢進が起きている場合は「呼吸仕事量」が増えることがあります。
そうなると呼吸困難が生じます。
努力呼吸や胸郭の硬さ
呼吸に使う筋肉が疲弊している可能性もあります。
肺胸郭コンプライアンスと呼吸筋力の関係性で呼吸筋の方が相対的に低下している場合は、
呼吸筋ミスマッチ説で呼吸困難を訴えます。
この場合も低酸素血症を生じないことがあります。
不安やパニック
呼吸困難と不安は密接につながっています。
大脳辺縁系(特に扁桃体など)と呼吸は密接にネットワークを組んでいます。
そのため呼吸困難が不安を助長、逆に不安が呼吸困難を助長するといったことが起きます。
対応の工夫
・SpO2以外の呼吸困難に関連するアセスメントをする。
(呼吸回数、呼吸補助筋の使用 の有無、末梢循環、動作との関連-末梢骨格筋機能など)
・呼吸のコントロール(口すぼめ呼吸など)や安楽姿位(座位前傾位など)を指導して、
呼 吸パターンが変化するか、そして呼吸困難が軽減するか。
・必要に応じた呼吸運動への介入。
(口頭指示や呼吸介助など)
質問②
訪問看護をしています。
間質性肺炎の終末期で、安静時酸素が1L/minでSpO₂は95%、呼吸回数40回程です。
会話もきつい状態です。
少しでも安楽に過ごせるサポートがあれば知りたいです。
回答
とても悩ましい状態ですね。
何とかしてあげたいと思うけど、何をしても効果が出ない。
そんなジレンマを感じる患者さんです。
【呼吸回数の上昇の背景】
・呼吸回数の増加=肺間質の炎症による影響(肺間質にあるレセプターによる)
・換気量低下(肺容量低下)による呼吸回数上昇
・SpO₂が保たれていても呼吸回数上昇、肺コンプライアンス低下、レセプターの刺激 など、
それらにより「呼吸仕事量」が亢進
対応のポイント
姿勢の工夫:
その患者さんが楽であるという姿勢を探す(軽度前傾位やセミファウラー位などは一般的)
呼吸リズムの誘導:
呼吸のコントロール。
医療者がコントロールを手助けする。
ただこの方法は、この質問をされた方も試されたと思います。
その時一瞬だけ呼吸コントロールはできますが、すぐに呼吸パターンは戻ります。
正直、この状況になると呼吸リズムの誘導は困難であると思います。
別の方法を試めす時間に当てた方が良いと思います。
精神的な安心感の提供:
呼吸困難を感じている時に大脳辺縁系の扁桃体が活動することがわかっています。
これは情動を司るところです。
この扁桃体と嗅神経ネットワークが組まれていることもわかっており、
それがアロマのリラックス効果の機序であるとも言われています。
そしてここに出てくる 2つをつなげるのは扁桃体です。
そこをアロマで刺激することで、不安軽減、呼吸困難軽減に寄与するといった研究もあります。
またTRIPM8(トリップエムエイト)受容体を顔に心地よい風を当てる、
メントールと吸入するといったことで刺激するという方法もあります。
そのような効果を狙ってみても良いかもしれません。
医師と連携した薬物的アプローチ:
正直、根拠のある方法としては、モルヒネの少量使用などでしょう。
「呼吸困難」への効果は研究で証明されてきております。
これに関しても、前の質問と関連が出てくると思いますが、
早い段階で意思決定をしておく方が良いと思います。
おわりに
SpO₂の値が保たれていることと、患者さんが感じている呼吸のつらさは、
必ずしも一致するものではありません。
数値だけで判断するのではなく、
呼吸の様子、不安、姿勢、動作との関係などを含めて捉えることが、
臨床では重要であることが示されています。
本記事は、
セミナーにおいて寄せられた質問に対し、
理学療法士・秋保光利先生が後日あらためて回答してくださった内容を、
内容を変更せず掲載しています。
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