『スピリチュアルペイン』に向き合う覚悟とは
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全人的苦痛
全人的苦痛とは
全人的苦痛とは、患者に対して着目すべき複雑な苦痛のことであり、トータルペインとも言われます。この概念は、英国の医師であったシシリー・ソンダースによって提唱されました。
全人的苦痛は、1. 身体的苦痛、2. 精神的苦痛、3. 社会的苦痛、4. スピリチュアルな苦痛(スピリチュアルペイン)の4つの要因が複雑に絡み合った構成となっており、緩和ケアの土台となる考え方であります。
精神的苦痛とスピリチュアルペインの違い
精神的苦痛とは
病院での入院生活を想像してほしい。住み慣れた自宅から離れ、見慣れた景色はなくなり、家族が過ごしている声や物音の代わりに、他患者の声やワゴンの音、ナースコールの音など、自分の日常から切り離された空間で過ごすことになります。ましてや現在は、新型コロナウイルスの流行により入院患者への面会が禁止されています。
このような、孤独や寂しさ、不安などのつらさが増強する環境で、家族に会いたい、環境が変わって眠れない、何もやる気がしない…となる、これが精神的苦痛と言えます。
スピリチュアルペインとは
では、スピリチュアルペインとは何か。
入院生活では、家族に会えない、誰かと話したい…という想いと同時に、「なぜこんなに苦しい思いをしなければいけないのか」「どうして残された時間が少ない私から大切な時間を奪うのか」「家族にもう二度と会えないならこんな苦しみには耐えられない。ここに一人でいるくらいなら早くお迎えが来てほしい」などの、苦しみの意味や人生の意味への問いなどが苦痛として出てくることがあります。これがスピリチュアルペインと言えます。
しかし、精神的苦痛とスピリチュアルペインは、必ずしも明確に分けられるものではなく、それぞれが関係性を持っているものなのです。
未知の旅に伴走するケアを
意味や価値の喪失は解決できるのか
孤独、寂しさ、落ち着きのなさ、不安などの精神的苦痛は、あくまでも「症状」であり、取り除くべく環境を調整することが必要です。環境が変わって眠れないのであれば、眠前に足浴をしたり、安心するように訪室をこまめにしたり、時には薬剤治療も併用したりして、つらさの緩和をしていく必要があるでしょう。
しかし、スピリチュアルペインは意味や価値の喪失であり、完全に取り除くことはできません。いくらベテランの医療者でも、その人が抱えている意味や価値の喪失の特効薬などは持ち合わせていないでしょう。それでも、「何とかしてあげたい」と多くの医療者は解決する方法を考えます。
伴走するケアとは
大切なことは、その見えない意味や価値を一緒に考えていくこと、見放さずに傍にいること、一人ではないとメッセージを伝え続けることで「共にある」という道のりを歩んでいくこと。これこそがスピリチュアルケアなのです。
スピリチュアルケアをしようとする医療者にとって必要なことは、「解決」ではなく「覚悟」です。「共にある」ことは何もできない自分と向き合うことでもあります。そんな何もできない自分でも、一緒に苦しみを見つめ続けようとする「覚悟」なのです。
命を救う救急現場では、私たち医療者が先導して治療に当たらなければいけない。でも、終末期ケアでは、患者が振り返るといつもすぐそばで見守っている、だから未知の旅でも歩いて行ける、そんな伴走する関係性を築くことを忘れないでいたい。