スピリチュアルケアとは
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全人的苦痛
緩和ケアでは全人的ケアが推奨されていますが、全人(whole person)は、body(身体)とmind(心)、spirit(魂)から成り立っています。
現代科学科学的な対処の困難なspiritを切り捨て、bodyとmindのみを介入対象として発展してきました。しかしWHOも緩和ケアの定義の中にスピリチュアルな問題への対応を掲げているように、spiritのケアを抜きにしては全人的なケアはできません。
人間が苦痛を体験するとき、痛みなどの身体的な感覚だけでなく、さまざまな感情や他者や社会との関係、日々の生活への影響、過去から未来へ続く時間の流れを含んだ心理・社会的、スピリチュアルな側面が統合された全人的な体験として迫ってきます。病による苦痛は、確実にその人の人生に絡んだ複雑な体験です。それを理解するための重要な概念として全人的苦痛(トータル・ペイン)があります。身体的な痛み、精神的な痛み、社会的な痛み、スピリチュアルな痛みは相互に影響し合い、複雑に絡み合った形で現れてきます。そしてそれを表現できるのは、体験しているその人だけなのです。医療・介護従事者は、このトータルペインの視点をもってケアを行っていくことが望ましいといえます。
スピリチュアルペインとは
近代ホスピスの創始者であるシシリー・ソンダースは、死との対峙を余儀なくされたとき、「多くの患者が自責の念あるいは罪の意識をもち、自分自身の存在に価値がなくなったと感じ、ときには深い苦悶のなかに陥っている。このことが、真に『スピリチュアルな痛み』とよぶべきものであり、それに対処する援助を必要としている」と述べています。
医療者が行うべきスピリチュアルケア
スピリチュアルケアはその人の人生やそれを支える価値・信念に深く関与することになります。このため医療者が苦悩する患者に対して何らかのケアを行うことはたやすいことではなく、まず患者に関わることが求められます。
患者との関係性を構築し、ケアリングのプロセスを通して、スピリチュアルペインの表出を促します。次に、表出されたスピリチュアルペインが生じた理由について患者が思索を深められるように、患者の語りに耳を傾けることが重要になります。患者は、語ることにより何に苦しんでいるのか、その意味は何か、などを問うことができるのです。
語りに耳を傾けることを「傾聴」といいます。傾聴は、話し手から聞き手への一方的なコミュニケーションではありません。話し手が「聞き手に伝わった」「自分の思いを分かってもらえた」と感じられることで傾聴によるコミュニケーションは成立します。
スピリチュアルケアにおいて最も大切なことは「共感すること」です。怖い・孤独・不安・怒り‥‥さまざまな感情で表出されるスピリチュアルケアをまず受け止めること、その思いを認めること、それがとても大切です。医療者が持ちがちな「なにか答えなければ」「言わなければ」の感情はまずそっと自分の横に置いて目の前の方と向き合ってみましょう。