緩和ケアにおける神経ブロックの意義とは~神経ブロックを行いQOLが向上した事例~
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はじめに
前回は、神経ブロックの効果と適応をお話していきました。
簡単におさらいしていきましょう。
神経ブロックの効果とは
神経ブロックは治療困難な疼痛(難治性疼痛)を抑える効果や、迅速な疼痛の軽減が得れるなど期待することができます。また、疼痛が緩和することでオピオイド(薬物療法)の減量につながり、副作用(眠気や便秘など)の症状の改善も得られます。そして疼痛に思考を支配されずにご自分のやりたいことができ、生活の質の向上が期待できます。
神経ブロックの適応とは
医療用麻薬や鎮静補助薬の調整をしても十分な鎮痛効果が得られない場合、副作用が強く、使用できない場合。また、比較的場所が限定された痛みや、腫瘍や骨転移が神経に浸潤して出現している疼痛の場合などです。
神経ブロックにおける効果と適応を踏まえて、今回は日本でも緩和ケア目的での神経ブロックを行っている施設での事例から、神経ブロックの意義について考えていきたいと思います。
*事例は、緩和ケア「生活を支えるための神経ブロック」Vol.35 No.3 2025.5参考に作成
事例①~神経ブロックの効果で子どもの結婚式に参列できた事例~
〈患者〉
60歳代、女性
〈疾患〉
乳がん、肺転移、胸膜播種、がん性リンパ管症を認める
〈背景〉
主訴は、乳がんの肺転移による胸部の痛みや、リンパ管症(がん細胞がリンパ管を経由して転移し、リンパ管を閉塞させてしまう症状)による呼吸困難がありました。ADLは、痛みや呼吸困難により端座位が難しく、ギャッジアップで5分~10分程度は座っていること、車椅子の移乗がかろうじて可能な程度で、予後は1か月~週単位と予測される状態でした。薬物療法の使用により、安静時の症状は軽減しましたが、体動時には痛みが強く、日中はほとんどベッド上臥床で過ごしている状態でした。
そんな中、娘さんの結婚が決まり、「母親にも結婚式に出席して欲しいのでホスピス病棟内にある礼拝堂なら出席することが可能か」という相談がありました。患者さんからも「娘のウェディングドレス姿が見たい」と希望があり、ホスピス病棟内にある礼拝堂で結婚式を挙げることになりました。結婚式に出席することができるようにするためにカンファレンスが行われ、一時的にでも座位を保持できる時間を延長するために神経ブロックが検討されました。
〈神経ブロックの実施〉
結婚式に備えて、事前に神経ブロックの効果を確認するためにテストブロックが行われました。施術直後から数時間にわたって痛みが軽減し、夕方には1時間程度座って家族と談笑される姿が見られました。
結婚式当日は、3時間前に同様の神経ブロックを行い、最後まで無事に式に参列することができました。そして家族写真を撮ることができました。患者さんは「娘の晴れ姿に感動した」と話され、満足感が大きかったと考えられました。
その後は日ごとに衰弱し、体を動かすことも減りましたが、結婚式から2週間後に永眠するまで、強い痛みの訴えは少なく過ごされました。
〈考察〉
今回の事例では、痛みのために10分程度しか座っていることができない患者さんに対して、「結婚式に出席したい」という希望を叶えるための神経ブロックの実施でした。身体の状態はよいとはいえない状態でしたが、カンファレンスを行い、鎮痛剤ではなく神経ブロックを実施し、結果、結婚式に最後まで参列することができました。患者さんからは満足感の高い発言が聞かれましたが、ご家族の方にも「結婚式で晴れ姿を見せてあげることができた」という満足感が得られたのではないでしょうか。それは、患者さんだけでなく、残される家族のグリーフケアにも繋がった事例だと思います。
事例②~神経ブロックの効果で自宅に帰ることができた事例~
〈患者〉
70歳代、男性
〈疾患〉
肝臓がんステージⅣ、多発骨転移を認める
〈背景〉
主訴は、病状進行に伴う強い倦怠感と下肢浮腫、浮腫に伴う疼痛、多発骨転移に伴う体動時の腰背部痛がありました。日常生活動作は、介助で車椅子に移乗し、なんとかトイレまで行くことができる程度で、トイレ以外はベッドで過ごされていました。
がんと診断されてから化学療法を継続したものの、進行していく病巣に「何をしてもどんどんがんは広がっているし、もう辛い治療は止めたい」と本人から希望があり、積極的な抗がん剤治療は終了しました。抗がん剤治療終了から3か月経過した辺りから、治療中にはみられなかった症状が出現し、緩和ケアチームへの介入依頼がありました。疼痛に対して薬物療法が開始となり、同時に神経ブロック施行の方針となりました。
入院当初患者さんからは「トイレに行けなくなったら緩和ケア病棟に入院したい」「息子夫婦に迷惑はかけたくない」と話されていました。妻には先立たれ、息子夫婦と同居していましたが、共働きの息子夫婦の迷惑にはなりたくないと苦悩を吐露されていました。しかし、神経ブロックの提案を受けてから「もう一度自宅に帰りたい」、「趣味の盆栽の手入れをやりたい」と話され、息子夫婦も「父の思いに添いたい」と話されていました。この時点での予後は週単位から月単位と考えられ、タイミングとしては今が最適であると考えられました。
〈神経ブロックの実施〉
神経ブロックの実施後は、痛みがほとんどなくなり、訪問診療と訪問看護を導入して、希望通り自宅退院することができました。そして、日中は趣味の盆栽を手入れしたり、息子夫婦や孫と最後を迎えるぎりぎりまで自宅で一緒に過ごすことができました。
〈考察〉
今回の事例では、入院当初は共働きの息子夫婦に負担をかけたくない、トイレに行けなくなったら緩和ケア病棟へ入院したいと希望されていました。痛みからADLも低下し、ベッド上で過ごす時間が多く、自宅へ帰るなんて難しいのではと思うような事例でした。しかし、神経ブロックの提案を機に、本当の希望が見えてきました。痛みにより諦めていた想いを、神経ブロックによって除痛することで叶えることができた事例でした。そして、訪問診療や訪問看護を導入することで、最期を迎えるぎりぎりまで自宅で過ごせたことは、本人の満足感はもちろんのこと、一緒に住んでいる息子夫婦にとっても満足できる結果になったのではないでしょうか。また、その満足感は家族のグリーフケアにも繋がったのではないでしょうか。
おわりに
緩和ケアにおける神経ブロックとは、がん性疼痛の緩和、オピオイドによる疼痛緩和では難しい難治性疼痛の緩和だけでなく、オピオイドをはじめとする薬物の使用料の減量や副作用の軽減が図れ、そしてそれは、患者さんの生活の質の向上にも繋がるのです。痛みのために諦めていた日常生活や趣味・外出などの時間、オピオイドによる副作用で諦めていたことなどを、神経ブロックによる疼痛緩和で、患者さんの希望を叶えることに繋がった事例を紹介しました。中には神経ブロックに対する不安を吐露する患者さんもおられるでしょう。イメージの付きにくい処置には不安はつきものです。その時に無理強いするのではなく、患者さんの不安を傾聴し、得られる効果とリスクとの話し合いをする場を設け、イメージがしやすいようにテストブロックを行うなど、患者さんに合わせた対応を行うことで、患者さんも安心して処置を行うことができるでしょう。
患者さんの一番身近にいる看護師が、患者さんの苦痛や希望などを丁寧にアセスメントすることで、よりよい看護に繋がるのです。
このように痛みのためにやりたいことを諦めるのではなく、神経ブロックによる除痛を検討することで、痛みに支配されず、患者さんの想いや希望を叶え、生活の質の向上を図る一つの手段と考えることができます。
参考文献
緩和ケア「生活を支えるための神経ブロック」Vol.35 No.3 2025.5 p.177~178、p185~189
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