傾聴と患者のタイプ~患者は今、傾聴を望んでいますか?
- 目次
はじめに
終末期において「対話」はとても重要視されています。
そして、対話の基本はまず「傾聴」です。
しかし、みなさんは傾聴している時に「何か違う」と思ったことはありませんか?
患者さんが「今、望んでいることは本当に傾聴なのだろうか?」
そんな疑問を持ったことはないでしょうか。 今回は、患者さんのタイプと傾聴が有効なタイプについて考えていきたいと思います。
終末期患者への対話で大切にしたいこと
終末期患者のQOLを向上するためには「対話」は重要な要素の一つです。対話の基本は「傾聴」です。まず、傾聴で大切になるのは、患者さんの置かれた背景と状況、治療に対する考え方、家族構成、生活の仕方などの基本情報です。それ以外にも、楽しみにしていること・大切にしていること・ライフイベントなども丁寧に傾聴していきます。
治療よりも患者さん自身のQOLが大切であると伝えましょう
進行がんと診断されると、多くの方は病気に目が向いてしまい、治療を優先しようとします。そのため、自分自身の大切なライフイベントを諦めてしまうことがあります。しかし、治療を優先するかどうかは患者さんの話を傾聴した上で、「その人自身の生活が大切であり、それを優先することがあってもいい」と伝えることが大切です。 私たち医療者は、患者さんがその人らしく生きていくために治療をしていることを忘れてはいけません。
終末期患者に傾聴は重要といっても、10人いれば10人それぞれの背景があります。そのため、傾聴の仕方も多種多様で、患者に寄り添う傾聴だけでは不十分な場合があります。 そこで、Emanuelらの協議モデルを参考にしてみましょう。
Emanuelらの協議モデル
①説明型
情報を全て収集し、自分で全て考えて決めていきたいタイプ
②解釈型
患者としては迷いが多く、医師に頼りながら一緒に決めていくタイプ
③協議型
患者の最も大切な価値観を共有し、一緒に協議しながら考えていくタイプ
④父性型
医師に依存し、医師に従っていくタイプ
傾聴が効力を発揮するタイプとは
▼この分類のなかでは、傾聴が有効なタイプは、②解釈型と③協議型です。
傾聴が有効なタイプ
・解釈型
不完全で迷いが多く、患者の価値観を尊重しながら、適切に情報を提示していくことが望ましく、医療者はカウンセラーのような立場で接するのが効果的です。
・協議型
患者の最も大切にしている価値観を一緒に共有し、オープンな協議を希望している傾向があり、医療者は友人や教師のような立場で接するのが効果的です。
傾聴があまり有効ではないタイプ
・説明型
傾聴よりも事実に基づく情報の提示のみを求めていることが多いタイプで、医療者は有能な専門家的な立場で接するのが効果的です。
・父性型
医師に全てをおまかせしたいタイプであり、丁寧な傾聴よりも、医師に主導的に治療をすすめて欲しい傾向があり、医療者は保護者的な立場で接するのが効果的です。
まとめ
このように、患者を4つのタイプに分類し、どのようなタイプであるか見極めることは、臨床上有用です。しかし、すべての人が必ずこの4つのモデルに当てはまるというわけではありません。あるときは父性型であったり、あるときは協議型であったりと、時期や環境などによって変化します。
私たち医療者はこの4つのモデルを念頭に置きながら「この患者は〇〇モデルだから」と決めつけるのではなく、常に患者に寄り添い、柔軟な姿勢で患者さんと接していくことが大切です。「今、患者さんが求めていることは何だろう」と考えるきっかけにしてみてください。
そして、傾聴や対話だけでなく、ただ傍にいるネガティブ・ケイパビリティも一緒に実践してみましょう。
参考文献
Shared Decision Makingの可能性と課題―がん医療における患者・医療者の新たなコミュニケーション―
石川 ひろの
医師―患者関係における協議モデル メリット,問題点および今後の課題
小松 楠緒子
緩和ケア vol.32 No.6 NOV.2022 傾聴が効力を発する患者のタイプ
勝俣 範之
【終末期ケア専門士】について
終末期ケアを継続して学ぶ場は決して多くありません。
これからは医療・介護・多分野で『最後まで生きる』を支援する取り組みが必要です。
時代によって変化していく終末期ケア。その中で、変わるものと変わらないもの。終末期ケアにこそ、継続した学びが不可欠です。
「終末期ケア専門士」は臨床ケアにおけるスペシャリストです。
エビデンスに基づいた終末期ケアを学び、全人的ケアの担い手として、臨床での活躍が期待される専門士を目指します。
終末期ケア、緩和ケアのスキルアップを考えている方は、ぜひ受験をご検討ください。