終末期の傾聴とネガティブ・ケイパビリティ|一般社団法人日本終末期ケア協会

終末期の傾聴とネガティブ・ケイパビリティ

2024.11.14 JTCAゼミ

目次

どこまで行う?終末期の傾聴

終末期の現場で患者と関わる時には、傾聴が重要な役割を担っています。

しかし、聴くことに限界を感じたことはありませんか?

「患者の抱えている問題を早急に解決してあげたい」と思う気持ちが空回りした経験はありませんか?

今回は「ネガティブ・ケイパビリティ」というスキルについてお話ししていきます。

ポジティブ・ケイパビリティとネガティブ・ケイパビリティ

みなさんは「ポジティブ・ケイパビリティ」と「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉を聞いたことはありますか?

ポジティブ・ケイパビリティとは

人間の脳は「わからないもの、理解できないもの」に対して本質的に恐怖を覚えます。例えば「死」に対しても同様です。理不尽に人の命を奪う「死」を、理解不可能なものから理解可能なものに落とし込もうとしてきたのが、現在の医学であり、宗教です。

このように、人間の脳は本能的に安心を求め、その能力を高めるために進化してきました。その能力こそ「ポジティブ・ケイパビリティ」と呼ばれるもので、何か問題が発生したときに、的確かつ迅速に「解決する」能力です。

ネガティブ・ケイパビリティとは

ネガティブ・ケイパビリティ」とは、『どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力』あるいは、『性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいることができる能力』を指します。つまり、「解決が困難な状況で、脳が本能的に不快と感じている状態のなか耐えられる能力」それこそがネガティブ・ケイパビリティなのです。

緩和ケアの現場でのネガティブ・ケイパビリティ

患者の「死にたい」や「生きていても意味がない」というような実存的な苦悩に対して、有効な治療や解決策を提案することは難しく、そんなとき私たちは無力さを感じずにはいられません。あるいは、「抗うつ薬はどうか」や「精神科を受診したらどうか」と思うかもしれません。しかし、本当にそれが患者の望んでいることでしょうか。

解決できない問題は、緩和ケアの現場では山のようにあります。しかし、そこで「私は無力だ」と思って落ち込む必要はありません。何もできなくてもいいのです。患者の傍に居続けてください。

ネガティブ・ケイパビリティへの誤認

ネガティブ・ケイパビリティによるアプローチに対する誤解の一つに、「解決しない=何もしない」と捉えられることがありますが、そうではありません。「苦しみと共に過ごしているあなたの時間を、ほんの少し私も一緒に過ごしますね」「あなたの苦しんでいる姿は、私が傍でちゃんとみていますよ」という『承認』をしているのです。

「人」という字は、ふたりの人が支え合ってできている、とよく言われます。人は独りでは生きていけないのです。ともに歩んでくれる人がいて、自分を見守り続けてくれる人がいてくれるからこそ、人は苦難のなかを歩き続けることができるのです。

私たちもその一部を担える存在になりたいですね。

まとめ

ネガティブ・ケイパビリティの大切さを伝えてきましたが、実践するのはとても難しいことです。なぜなら人の脳の本能に逆らう行為だからです。しかし、このアプローチを身につけることで、患者の言動を表面的に理解するのではなく、もっと深い傾聴ができるようになるかもしれません。

 

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