家族を支えるということ-家族を支えるすべての人へ-【JTCAゼミ】

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当協会のコアメンバーで家族支援専門看護師の中村剛士さんが、ご自身の体験をもとに家族ケアに関するコラムを書いてくださいました。15歳の時に難病を患った自身を支える、家族の様子。そこから、看護師として患者さんや患者さんのご家族への携わり方を綴っていただきました。
青年期の病気体験からの気づき
私は15歳のときに難病を発症しました。
診断を受けたとき、家族は大きく動揺し、私をどのように支えればよいのか戸惑っていました。
母は病気の情報を集めるために必死に本を読み、医師や看護師に何度も質問していました。
父は仕事の合間に私の様子を気にかけながら、家族全体の生活が崩れないように支えてくれました。
妹は、私の体調が悪いときには静かに過ごし、時には「大丈夫?」と声をかけてくれました。
けれど、そんな家族の頑張りの中にも、迷いや葛藤がありました。母は「もっと他にできることがあるのではないか」と自分を責めることがあり、父は「家族を守らなければ」という思いから無理をして体調を崩したこともありました。妹も、自分の気持ちを抑えて過ごすことでストレスを抱えていたのではないかと、後になって気づきました。
そのときの私は、家族が懸命に支えてくれていることは感じつつも、「みんながこんなに悩んでばかりで大丈夫なのかな?」と心配していました。
しかし、今ならわかります。その迷いや不安こそが、家族が私のことを真剣に思い、支えようとしてくれていた証だったのだと。

悩みや迷いが家族を支える力になる
そして今、私は看護師として、多くのご家族と関わる中で同じような姿を目にします。
「この声かけでよかったのかな?」
「本当はもっと話を聞いてあげるべきだったかもしれない…」
「疲れているのに、つい感情的になってしまった…」
家族が家族員である患者さんとの関わりに迷い、悩む姿を見るたびに、私は、「家族は葛藤して揺れながらも、家族同士が支えあって困難を乗り越えていく」と感じます。
私自身も、患者さんやご家族との関わりの中で「これでよかったのだろうか?」と考え続ける日々です。
あるご家族からいただいた言葉が心に残っています。
「看護師さんが『感情を出しても大丈夫。喜んだり、怒ったり、悩んだり、迷ったりしてもいいんですよ。』って声をかけてくれたのが嬉しかったんです。『どうにかしなきゃ』と焦るばかりだったけど、その言葉で『悩んでいる私の気持ちも間違いじゃないんだ』って思えました。」
その言葉に、私は大切なことを教えてもらいました。
「悩むこと」や「迷うこと」は、家族を思う気持ちがあるからこそ生まれるもの。不安だからこそ考え続けることが、きっと家族を支える力になります。
実践で見えてきた家族ケアの本質
家族ケアの対象は、患者さんだけでなく、その家族もケアの対象です。
病気や障害を抱える方を支えるご家族は、日々の生活の中で多くの役割を担い、時には自分を後回しにしてしまうこともあります。
例えば、ある終末期がん患者さんとの関わったときのこと。
ご家族が「もっと栄養を取らせるためにたくさん食べさせた方が良いのでは?」「このままでは何もできなくなるのではないですか?」と不安を口にしていました。
私はその気持ちに寄り添いながら、患者さん自身の希望を尊重しつつ、家族ができることを一緒に考えていきました。
また、自宅での介護が「もう限界かもしれません」とご家族が涙ながらに話したこともあります。
そのとき私は「今まで本当に頑張ってこられましたね」とその努力を認め、介護負担を軽減する方法を一緒に考えることで、少しでも心の負担を和らげられるように努めました。
家族の「正解のない悩み」に寄り添い、一緒に考え続けること。
答えを押しつけるのではなく、その家族にとって最善の選択肢を見つけるお手伝いをすることが家族ケアの重要な要素だと考えています。
家族のあり方を問い直す
「家族とは、こうあるべき」と決めつけてしまうとかえって苦しくなることがあります。
でも、家族は完璧でなくていい。
迷い、悩みながらも「この人を支えたい」と思い続けることが、きっと何よりの力になります。
「家族とは何か」「自分の関わりは本当に役立っているのか」
そんな問いに向き合う方々が、自分の悩みや迷いを大切にしながら、一歩踏み出して家族ケアを提供してほしいと思います。
執筆者

中村剛士
西大須 伊藤内科・血液内科 家族支援専門看護師
日本終末期ケア協会 コアメンバー
3次救急病院にて中央手術室→救命救急センター初療室に所属
(内視鏡室・心臓カテーテル室・脳アンギオ室兼務)
在職中に、家族支援専門看護師取得、介護支援専門員取得
日本家族看護学会第26回学術集会にて学術集会賞 (最優秀研究発表)を受賞
大学教員として基礎教育、家族看護研究に携わる
現在は、西大須 伊藤内科・血液内科 地域連携部長(訪問診療同行看護師・訪問看護師・クリニック看護師)
大学院非常勤講師(家族支援専門看護師コース担当)
家族ケアセミナー講師、家族ケアに関する書籍を多数執筆し、家族ケアの重要性を発信