認知症の人の力を引き出す方法とは?|一般社団法人日本終末期ケア協会

認知症の人の力を引き出す方法とは?

2020.5.12 JTCAゼミ

目次

認知症の人の力を引き出す方法とは?



あなたの脳は一つですが、その性格は様々です。社会人の顔、家庭人の顔、やんちゃな顔などいろんな性格がありますが、なぜ一つの脳が様々な性格を持つのでしょうか。


進化の歴史を紐解けば、脳というのは過酷な環境で生き残るべく進化してきたことが分かります。陽気が寒くなれば体温を上げ、ライオンが近寄ってきたら血圧をあげ、ウイルスに感染したらテンションを下げて生存競争を勝ち抜こうとします。このように脳は周りの環境に合わせて自分の状態を最適化するように進化してきたのですが、人間の脳というのは少し毛色が変わっています。というのも人間というのは仲間同士で助け合ったり殺しあったりする特殊な生き物で、それゆえもっとも重要な環境は、ほかでもない同じ人間ということになります。北風と太陽でもないのですが、私たちの脳は暖かい人には心を開き、冷たい人には心を閉じて、周りの人間に合わせて心を変えるようにできています。ではその仕組みはどのようなものなのでしょうか。


心は脳で作られるのですが、脳には感情に関わる扁桃体と呼ばれる部分と理性に関わる前頭前野と呼ばれる部分があります。




【前頭前野】 



【扁桃体】







この扁桃体と前頭前野は綱引きをしていて、片方が強くなると片方が弱くなるという仕組みになっています。つまり不安や恐怖を感じる人の前では扁桃体の働きが強くなって、前頭前野の働きが弱くなり、その逆もしかりという仕組みになっています。


ではこういったことを考えたとき、認知症の人の力を引き出すにはどうすればいいのでしょうか。一つは極力不安や恐怖といったネガティブな感情を与えないことです。慌ただしい現場ではついつい北風になってしまいがちですが、できるだけ太陽であることが大事になります。もう一つは前頭前野を使わせることです。手仕事や料理といった技能は手続き記憶と呼ばれ、認知症が進んでも比較的保たれることが知られています。このような仕事に取り組んでいるときには前頭前野が活発に働きますので、昔好きだったことに取り組んでもらうこともよいでしょう。


人は環境の生き物です。認知症の方にとって最大の環境は周りの人間です。あなた自身の在り方を変えることで認知症の方の在り方も変わるかもしれません。とはいえ生身の人間にとって太陽であり続けることは容易ではありません。太陽であり続けるためにも自分自身もきちんとケアして暖めることを心掛けたいものです。



【参考文献】
Salzman CD, Fusi S. Emotion, cognition, and mental state representation in amygdala and prefrontal cortex. Annu Rev Neurosci. 2010;33:173–202.
※本文中の図はWikipedia内の著作権フリー画像であるWikipediaCommonsより引用
前頭前野:
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Prefrontal_cortex_(left)_-_anterior_view.png
扁桃体:
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:MRI_Location_Amygdala_up.png