Language
/
身体疾患や薬物などの影響により生じる意識障害の一種で,急性の脳機能障害という「状態」です.これに伴い精神状態の変化や変動,記憶欠損,失見当識,言語障害などの認知機能障害,注意力障害,および思考の混乱または意識レベルの変化がみられます.
随伴症状として,睡眠覚醒リズムの障害,幻覚や妄想,精神運動異常や恐怖,不安,怒り,うつ,無感情,多幸症などの感情の変動があります.
・急性に発症し,数時間から数日単位で症状が変化する
・夕方から夜間にかけて増強する
・せん妄でみられる妄想は一過性であることが多い
が挙げられます.
※認知症やうつと症状が類似しているため間違えて認識される場合があるので注意が必要です.
過活動型せん妄 | 不穏状態といわれるもので,興奮して動き回るなど活動性が高まる |
低活動型せん妄 | 静かで内向的になったり,眠って過ごす時間が増えるなど活動性の低下がみられる |
混合型せん妄 | 過活動型と低活動型両方の症状がみられる |
過活動型せん妄と認知症,低活動型せん妄とうつ病はそれぞれ症状が似ているため間違われることがあります.
終末期に生じる治療困難なせん妄のことをいいます.終末期せん妄は,過活動型の場合も低活動型の場合もあります.
がん患者の約70%が終末期せん妄を体験するといわれており,終末期によくみられる症状であるといえます.
終末期せん妄による幻覚など,苦痛を伴う体験も多いため,せん妄症状の改善を目指したケア介入が重要となります.
せん妄は準備因子・促進因子・直接因子の3つの因子が複雑に絡み合って引き起こされます.
・準備因子は,せん妄を引き起こす素因となるもので,素因がないか確認していくことが必要です.
・促進因子は,せん妄を誘発しやすく,悪化や遷延化につながる要因となるため除去に努めます.
・直接因子は,せん妄の直接的な引き金となる要因であり,直接因子を把握し,改善が見込めるものについては対策を講じることが必要です.
特に終末期には原因が複数絡んでいることが多いため,治療が可能かどうかの見極めが不可欠となります.
準備因子 | 高齢 認知症 脳器質性疾患の既往 アルコール多飲 せん妄の既往 |
促進因子 | 身体的苦痛(不眠 疼痛 便秘 尿閉 視力・聴力障害 身体拘束など)
精神的苦痛(不安 抑うつ 身体拘束など) 環境の変化(入院 集中治療室 騒音など) |
直接因子 | 身体疾患 薬剤性 手術 アルコール(離脱) |
せん妄には,回復を目標とする「可逆性せん妄」と,回復が望めないため苦痛緩和を目標とする「不可逆性せん妄」があります.
せん妄では,その原因を取り除くことが可能かどうかによって,治療目標が異なり,使用する薬物も違います.
せん妄と診断されれば,まず原因に対するアプローチを行い,続いて、必要に応じて薬物療法を検討します.
可逆性せん妄では,せん妄からの回復を目指して抗精神病薬を使用しますが,不可逆性せん妄では苦痛軽減のため抗精神病薬や医療用麻薬を使用することがあります.
不眠の治療薬として,ベンゾジアゼピン系薬が処方されることがありますが,せん妄を発症するリスクが高いため使用を控えることが望ましいです.
・昼夜のメリハリをつけるなど照明の調整
・生活リズムを整える
・排尿,排便,口喝などの基本的ニードの充足
・痛みや発熱など身体的苦痛の確認
・眼鏡,補聴器の使用
・日時や場所を意識した声かけを行うなど見当識への支援
・自宅で使用していたものを持参する,写真を飾るなどなじみのある環境をつくる
・活動する時間帯の点滴を避ける,活動の妨げにならないようルート類の管理
・落ち着いたコミュニケーション
・障害物や危険物の除去,見守りやすい部屋にするなど部屋の安全確保
せん妄ケアは,本人へのケアだけでなく,家族へのケアも大変重要となります.
家族の多くは,いつもと様子が違い,人が変わったように見える患者の姿を目の当たりにし,ショックを受け,どのように接したらよいのか分からず困惑してしまいます.したがって,家族の気持ちに寄り添うこと,コミュニケーションで注意が必要なことを分かりやすく伝え,せん妄についての正しい情報を伝えることが大切です.
また,せん妄症状の改善のために薬剤を使用することもあります.ご家族の中には,向精神薬,睡眠薬,医療用麻薬などの使用に不安を抱くこともあります.
薬剤に期待される効果,呼吸抑制や過鎮静などのリスクについても家族に伝え,対策を検討していくことが必要です.
【参考文献】
一般社団法人 日本終末期ケア協会;終末期ケア専門士 公式テキスト第1版,2020