悪液質について

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悪液質とは
悪液質(Cachexia)とは「何らかの原因疾患によって体内でたんぱく質が合成できず、逆に筋肉内のたんぱく質が破壊されることで栄養不良状態が生じ衰弱した状態」を指す言葉として古くから用いられてきました。しかし、その病態は複雑で明確な定義が無く、あいまいな概念でした。
2007年に行われたコンセンサス会議では、「悪液質は基礎疾患に関連して生ずる複合的代謝異常の症候群で、脂肪量の減少の有無に関わらず筋肉量の減少を特徴とする。臨床症状として成人では体重減少、小児では成長障害がみられる。」と定義されています。
また、2011年に発行された「悪液質に対するガイドライン(EPCRC:European Palliative Care Research Collaborative)ガイドライン)」ではがんの特性を考慮し、「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無にかかわらず)を特徴とする多因子性の症候群」と定義されています。
悪液質の発生機序(メカニズム)
1980年代以降、悪液質の機序に炎症性サイトカインの活性化が大きく影響していることが明らかになりました。EPCRCの定義では、経口摂取量の減少と代謝異常の両方が悪液質をもたらし、さまざまな割合で栄養状態を悪化させるとしています。一般に悪液質の早い段階では、経口摂取の減少が栄養状態を悪化させる主な要因となり、がんの進行に伴って代謝異常が進むと治療抵抗性の低栄養となります。
QOLに与える影響
悪液質は悪性腫瘍だけでなく、心不全、慢性肺疾患、腎疾患など、多くの基礎疾患に合併して見られる病態です。
悪液質発生の機序はいまだ不明な点が多いですが、近年その病態が解明しつつあり、食欲低下や炎症反応の亢進状態、インスリンへの抵抗性、蛋白異化状態の亢進など、複合的な代謝障害であることがわかってきています。
例えば、がん患者の場合、原発部位や進行度により差はあるものの、食欲不振や体重減少に陥り、次第に栄養不良となることが多く、中等度の食欲不振はがん患者の半数以上に、また、体重減少は30~80%に認められていると報告されています。特に進行がんでは、がん細胞が放出する物質や炎症性サイトカインが全身に影響を及ぼして、症状が進行することもあります。
がん悪液質が進行すると、痩せた外見や食が細くなることを気にして、外出や外食を控えたり、人に会うことに抵抗を感じたりしてしまいます。また、痩せた姿を見ると家族は何とか少しでも食べてほしいと願い、その思いが本人との対立関係を引き起こしてしまうこともあります。このように、悪液質によって社会的な孤立状態を引き起こしやすく、QOLの低下につながることもあります。

悪液質には早期介入を
悪液質には「前悪液質」、「悪液質」、「不応性悪液質」の3つのステージがあり、すべての悪液質患者がエンド・オブ・ライフの段階にあるわけではありません。
一般的に前悪液質~悪液質の段階では可逆的とされていますが、進行した悪液質における栄養障害の改善は困難であり、予防がより重要であるとされています。
典型的な悪液質の症状を示さず、慢性疾患を合併した患者の食欲不振や代謝異常などの兆候を認めた場合は、前悪液質を疑って評価し、栄養サポートを行っていくことがより重要となります。兆候が軽度な早期の状態から栄養サポートを行うことにより、栄養不良の進行を遅らせたり、他の原因による栄養不良を改善したりする可能性が高くなります。それにともない治療の継続や予後の改善につながるとも考えられます。
但し、不応性悪液質の状態になってから過度に介入することはかえって本人の負担を増大させてしまう可能性があります。不応性悪液質の場合は、緩和的治療を目的としつつ、栄養補助食品の提案や食べ方・調理方法の工夫などを取り入れていく必要があります。
《引用参考文献》
1)エンドオブライフケアVol.3 No. 6(日総研出版), P2-5
2)がん悪液質ハンドブック(一般社団法人日本がんサポーティブケア学会他), 2019
3)緩和ケア Vol. 32 No. 5(青海社), P364-371
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