終末期の肝硬変における腹水管理|医療者が知っておきたいケアと対応
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肝硬変が進行すると、多くの患者さんが「腹水」に悩まされます。特に肝硬変の終末期の腹水は、利尿薬の効果があまり得られず(難治性腹水)、再貯留もしやすく治癒することが困難です。
腹水は呼吸困難や腹部膨満感、食欲低下を引き起こし、患者さんの生活の質(QOL)を大きく損ないます。
腹水の病態や症状、治療法、ケアのポイントを整理しています。
目次
・なぜ終末期に腹水が増えるのか?
・腹水に対する治療と対応
・ケアの実践ポイント
なぜ終末期に腹水が増えるのか?
肝硬変が進行すると肝臓の線維化によって血流が障害され、次のようなメカニズムで腹水が生じます。
門脈圧亢進
腹腔内への液体の漏出が増加
低アルブミン血症
膠質浸透圧の低下により血管内から水分が漏れやすくなる
腎血流低下とRAA(レニン-アンギオテンシン-アルドステロン)系活性化
ナトリウムと水分が体内に貯留
これらが重なって、コントロール困難な腹水へと進行します。
腹水が患者に与える影響
呼吸苦:横隔膜が押し上げられ、肺活量が低下
食欲低下:少量で満腹となり、低栄養の悪循環へ
腹部膨満感・不快感:衣服が着られない、体位保持困難
倦怠感や浮腫:活動量の低下につながる
精神的苦痛:外見の変化や「また水がたまった」という不安
終末期では「がんの腹水」と同様に、身体的苦痛と心理的負担が複合的に現れることが特徴です。
腹水に対する治療と対応
腹水に対する治療法はさまざまで、患者の状態に応じて適宜対応していく必要があります。
治療
利尿薬
・使われるのはスピロノラクトンやフロセミド
・電解質異常(低Na、高K)や腎機能悪化に注意
・終末期では効果が限定的になるケースが多い
アルブミン補充
・一時的に膠質浸透圧を改善
・腹水コントロール効果は短期間で、根治性はない
腹水穿刺
・もっとも即効性があり、苦痛を大きく和らげる方法
・数リットル排液することで呼吸苦や膨満感が改善
・再貯留を繰り返すため、施行の頻度や侵襲度を考慮して実施
CART(腹水濾過濃縮再静注法)
・腹水を濾過・濃縮してアルブミンを再静注する治療
・栄養保持や低アルブミン血症改善に寄与
・サイトカインによる発熱・悪寒が副作用として出やすい
・終末期では「侵襲度とQOL改善のバランス」を考えて導入を検討
腹水ドレナージ(カテーテル留置)
・在宅やホスピスで導入される場合もある
・繰り返し排液が可能だが、感染リスクに注意
輸液の調整
・余分な輸液はさらに腹水を悪化させるため、IN OUTの量を把握したうえで輸液量を調整し、全身の溢水症状に注意する
オピオイドの使用
・腹満感が強いときは少量のオピオイド(フェンタニル100~200μg/日、フェントス0.5~1mg)を貼付する
・エチゾラムやセルシン、ダイアップ座薬なども筋弛緩作用に効果がある場合がある
ケアの実践ポイント
腹水が貯留するとそれに伴ってさまざまな苦痛が予測できます。少しでも苦痛の緩和ができるようにケア方法について知っておくことも大切です。
体位・呼吸のサポート
・腹水による呼吸苦にはセミファーラー位が有効
・腹部を圧迫しない衣服やリクライニング姿勢を工夫
食事・水分管理
・厳しい塩分・水分制限よりも「食べたいものを少量でも口にできる」ことを優先
・食欲低下に合わせて少量頻回食を提案
・腹水または肝性脳症がある場合は肝不全経腸栄養剤を使用
医療処置後の観察
・腹水穿刺やCART後は血圧低下、発熱、感染兆候に注意
・尿量や体重変化も観察ポイント
精神的サポートと意思決定支援
・「腹が大きくなる」外見変化や「何度も水を抜く」という不安に寄り添う
・「どこまで処置を行うか」を本人・家族と一緒に考え、チームで共有
まとめ
肝硬変の終末期における腹水管理は、治癒ではなく症状緩和とQOLの向上が目的となります。医療者に求められるのは、「苦痛を減らし、最期までその人らしく過ごせるよう支えること」です。終末期肝硬変の腹水ケアを、多職種で連携しながら行うことが重要です。
参考文献
医療情報科学研究所 編集,病気がみえる vol.1 消化器 第5版,メディックディア,2016,p.293-p.301
日本緩和医療学会,悪性腹水,最終アクセス日 2025.08.21
聖隷三方病院 症状緩和ガイド,最終アクセス日 2025.08.28
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