エンゼルケアの目的と手順をわかりやすく解説|看取りケアの実際
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人が亡くなられた後に行うエンゼルケアは、単なる「死後処置」ではなく、故人の尊厳を守り、家族が穏やかにお別れできるよう支える大切な看護です。
本記事では、エンゼルケアの目的・準備するもの・手順・家族ケア・費用について、実践に役立つポイントを解説します。
エンゼルケアとは
エンゼルケアとは、人が逝去した後に行う一連のケアを指します。
かつては「死後処置」「逝去時ケア」と呼ばれていましたが、現在では「エンゼルケア」という表現が一般的になっています。
逝去後の身体は、血流の停止によって変化が早く進むため、見た目を整える目的でも迅速かつ適切な対応が必要です。また、残された家族が安心してお別れできるよう支える、大切なケアといえます。
エンゼルケアの目的は大きく3つ
エンゼルケアの目的は大きく以下の3つです。
・尊厳保持
・感染予防
・家族への配慮
尊厳保持
清拭や着替え、整髪、エンゼルメイク(死化粧)などを通じて、安らかな表情や自然な姿に整えることは、生前の面影を残し、家族にも「最後まで穏やかな顔」と感じてもらうために大切なケアです。
感染症予防
ウイルスは生体内でしか増殖できませんが、細菌は条件が整えば増殖します。そのため、エンゼルケアを行う家族やスタッフへの感染予防が必要となります。標準予防策を行い、個人防護服や手袋、マスクを装着してエンゼルケアを行います。故人や家族の慣習も大切ですが、まずは何より「感染予防」が重要です。
家族への配慮
エンゼルケアでその人らしい姿に整えることは「きちんと最後までケアしてあげられた、最後にきれいな姿でお別れできた」と、家族の満足感や達成感を得られ、グリーフケアにも繋がっていきます。
準備するもの
清拭タオル、洗面器、洗浄剤/個人防護服一式/滅菌ガーゼ、フィルムテープ、廃棄バッグ/スポンジブラシ、歯ブラシ、綿棒/櫛、髭剃り、爪切り、ワセリン、化粧品/ドライアイスまたは保冷剤
タイミングと所要時間
エンゼルケアは、逝去後できるだけ早い段階で行います。目安として、病院・介護施設では死後30分以内に完了させることが適切とされています。
ケアにかかる時間は、一般的に30分から1時間程度です。
冷却
現場でエンゼルケアを行い、葬儀会社に引き継ぐまでに重要な役割が「冷却」です。腐敗を最小限に抑えるために、医療従事者が行える最も有効的な手段です。
ポイント
①最も効果が見込める冷却方法はドライアイスだが、準備が難しい場合は保冷剤・アイスパックでも代用可能
②同時に室温も下げる
下記の図のように冷却します。(終末期テキストから引用しています)

エンゼルケアの手順と注意点
一連の流れ
①家族への事前説明と確認
↓
②医療器具の対応
↓
③褥瘡の対応
↓
④内容物・排泄物の処理
↓
⑤鼻腔・口腔ケア
↓
⑥詰め物と臭気への対策
↓
⑦全身の清拭・お顔そり・爪切り
↓
⑧更衣
↓
⑨エンゼルメイク
↓
⑩洗髪・整髪
①家族への事前説明と確認
死亡が確認されれば、医師・家族の同意を得てエンゼルケアを開始します。
ポイント
・ケアの流れや所要時間を説明する
・費用の説明をする
・宗教や地域による慣習、家族の考えや文化に配慮し、確認しながら進める
②医療器具の対応
ここからは、家族の心情を配慮し、通常は家族は同席せず行います。
点滴抜針
点滴箇所を次亜塩素酸ナトリウム液(0.5%)で拭いたあと、ガーゼまたは脱脂綿で圧迫固定を行います。
遺体は血流がなくなり体内の凝固因子が消費されるため出血傾向となります。点滴などの抜去部から滲出液が漏出している場合は、ガーゼまたは防水性のドレッシング材で密閉するとよいでしょう。
気管切開
吸引器を切開口に挿入し、できる限りの範囲で吸い出し、切開部分の消毒を行います。その後ガーゼまたは脱脂綿を詰め、ドレッシング材を貼るか、医師による縫合を行います。
気管切開箇所はスカーフ等で隠すとよいでしょう。
胃瘻・ストーマ
胃ろうの瘻孔部分が汚染されている場合は愛護的に洗浄し、PEGの蓋は閉じておきます。ストーマは、洗浄後、新しいパウチに交換します。家族が望めば医師によって縫合します。
ペースメーカー
基本的には葬儀会社にペースメーカーの有無を伝えることで摘出の必要はないですが、火葬場によっては摘出の必要があるため確認が必要です。
③褥瘡の対応
次亜塩素酸ナトリウム液(0.5%)で消毒します。その後、水分をふき取り、褥瘡部分にガーゼまたは脱脂綿を詰め、防水性のドレッシング材を貼ります。
血液が漏出しないよう、必ず密閉するように貼りましょう。
④内容物・排泄物の処理
この工程では体液の漏出を防ぐことが重要です。側臥位にし、腹部を圧迫して尿便、胃の内容物を吐かせます。漏液を防ぐためには、体を傾ける前に、気管切開口などから内容物をしっかり吸引しておくことが大切です。
腸蠕動運動・反射が停止するため便の漏出の頻度は減少しますが、肛門括約筋が緩むため便汁が排出される場合があります。念のためオムツかパッドを当てておくとよいでしょう。
⑤鼻腔・口腔ケア
口腔内、鼻腔内、まぶたの内側(眼球)を次亜塩素酸ナトリウム液(0.5%)で消毒します。口が開かない場合は無理に行う必要はありません。
口が閉じない場合は、丸めたタオルを顎の下に置き、枕で首の角度を調整することで自然な閉口を得られやすくなります。
⑥詰め物・臭気への対策
脱脂綿を、鼻腔・口腔、便や尿の匂いがある場合には肛門や膣にも詰めます。皮膚を傷つけないようにクリームを塗布してから詰め物を行いましょう。
⑦全身の清拭・お顔そり・爪切り
ここからは、家族に同席してもらうことが一般的です。
・清拭:温かいタオルやガーゼを用いて身体を拭きます。続いて次亜塩素酸ナトリウム液(0.5%)にて消毒し、最後に保湿をします。
・お顔剃り:必ずジェル等で顔を保護してから行いましょう。
・爪切り:基本的には、故人の性別を問わず整えて問題ありません。しかし、女性の場合はネイルを希望される場合があるため、その際は深爪にしすぎないように注意が必要です。
⑧更衣
生前に故人が好まれた衣服や家族の希望を聞き、更衣をします。
衣服の上からドライアイスを乗せると、霜で衣服が濡れることがあるため注意が必要です。
⑨保湿・エンゼルメイク
保湿はエンゼルケアの中で最も重要な処置とも言われています。
保湿
まぶた、唇の粘膜部分は合わせ目が合っていない状態で時間が経つと乾燥で変容してしまいます。また、皮膚の薄い部分、粘膜部分は乾燥が進みやすく、乾燥部位には組織の硬化変色が現れるため、しっかり保湿しましょう。保湿剤は、エモリエント剤が適しています。
メイク
チークや口紅を少量、手の甲にとってから、額・まぶた・頬・あご先・耳などの肌に軽くなじませると、自然な血色感を補うことができます。女性の場合はメイクに好みを持っておられることがあるため、家族に相談しながら進めるとよいでしょう。
男性の場合
男性の場合でも顔色が悪いときには、薄くメイクをすることもありますが、抵抗を感じる家族もいるため必ず確認しながら進めましょう。
⑩洗髪・整髪
ドライシャンプーを用いて行います。エンゼルケア後に移動を伴う場合は、髪型が崩れやすいため、ヘアスプレーを行いましょう。
家族ケア(グリーフケア)
エンゼルケアは、故人の身体を整えるケアであると同時に、残された家族への心のケアでもあります。
家族の参加は強制ではありませんが、「お顔を一緒に拭いてみませんか」「この服に着替えさせてあげませんか」といった負担の少ない声かけをすると、自然に関われることがあります。ケア中の看護師の言葉も大切です。「闘病を本当によく頑張られましたね」といった故人を肯定する声かけは、家族の悲しみに寄り添う力になります。
グリーフケアについて詳しく知りたい方はこちら
費用
葬儀社への依頼の場合は5万~20万円とプランによって異なり、看護師が行う場合は1万~2万円で設定されていることが多いです。
家族とトラブルにならないためにも、開始前に必ず説明と同意を得るようにしましょう。
葬儀会社への引継ぎ情報
葬儀社・納棺師は何の情報も持たずにご遺族・故人と対面するため、良いグリーフケアに繋げるためにも必要情報を共有しましょう。
・療養の経過
・喪主、家族同士の関係性
・故人が生前好きだったこと
・家族の受け入れの程度
・NGワード、触れてはいけないこと
・感染症の有無
・ペースメーカー等の機器の有無
・目立ちにくい傷や皮膚状態
まとめ
いかがだったでしょうか。
エンゼルケアは、故人の尊厳を守り、家族が安心してお別れできるよう支える大切なケアです。
処置の正確さだけでなく、家族への配慮や声かけも重要な役割を持っています。
一つひとつを丁寧に行い、明日からの実践に生かしていきましょう。
参考
1) いろいろナース編集部(編). エンゼルケアとは?意味や流れをわかりやすく解説. いろいろナース. 2023. https://iroiro-nurse.net/angel-care/ 最終更新日:2025年8月20日
2) 沖縄病院(編). 終末期医療におけるスピリチュアルケア. 沖縄病院. 2017. https://okinawa.hosp.go.jp/wp-content/uploads/2020/06/h2910suraido2.pdf 最終更新日:2025年8月20日
3) 小口 紗穂 (著). エンゼルケアの目的と意義とは? 看護師・介護職が行う処置の手順を解説. コメディカルドットコム 豆知識. 2025年3月26日. https://www.co-medical.com/knowledge/article681/ 最終更新日:2025年8月20日
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