調節型鎮静について
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病院に限らず、高齢者施設や居宅など、緩和ケアが広く行われるようになった現状を受け、2018年に鎮静の定義などが「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き」として改訂されました。
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鎮静の定義の改訂
以前は、苦痛緩和を目的として鎮静剤を投与することで意図的に意識レベルを低下することを鎮静としていました。しかし、患者の意識レベルを低下させることを目的とはしていないにもかかわらず苦痛緩和のために鎮静剤を投与した結果、意識レベルが低下したということも臨床ではみられます。これが「鎮静」に値するのかどうか、現場では混乱もありました。
そこで、従来の定義にあった「医師が患者の意識の低下を意図する」ことに関連する文言が削除され、「治療ができない苦痛に対し、その苦痛を緩和することを目的として鎮静剤を投与すること」という極めてシンプルでわかりやすい定義に変更されました。
調節型鎮静とは
また、新たに『調節型鎮静』という概念が導入されました。調節型鎮静はできるだけ意識を下げないで、苦痛が和らぐ程度の鎮静薬を投与することを目指すものです。この改訂は、一般的には調節型鎮静を優先して考慮し、持続的で深い鎮静の使用は限局的に実施するという原則に基づいています。緩和ケア病棟では、以前からこの方法で苦痛緩和をとることもありましたが、この度、手引きに取り入れられました。
しかし、患者の苦痛の強さが著しく、治療抵抗性が確実で、予測される生命予後が切迫している、持続的深い鎮静でなければ苦痛が緩和されないと見込まれる場合などには、最初から持続的な深い鎮静を行うことも検討します。
鎮静の位置づけ
耐え難い身体的苦痛がある場合には、現場のスタッフも手引きに基づき鎮静を開始することに医学的・倫理的問題を感じることは多くありません。しかしながら、精神的な苦痛があり、患者が眠って過ごしたい、と希望した場合、私たちはどう応えればいいのでしょうか。あらゆる苦痛は、本人にしか感じることのできない主観的なものです。
しかし、現場では、医療スタッフと患者や家族の「耐え難い苦痛」が一致しない場合もあり、客観的に診断しにくい精神的苦痛がその対象となることもあります。精神的な耐え難い苦痛について鎮静をどうとらえるかはまだまだ議論が必要です。それは「どう死にたいのか」という死ぬ権利にも関わってくる問題となります。
ジャッジではなく対話を
鎮静の手引きに沿って多職種で話し合い、鎮静の適応を考えていきます。ここで大切なことは、きちんと患者や家族と対話を重ね、関係性を築いたうえで、あくまでも手引きは「ツール」として活用することです。手引きを使った多職種での話し合いが行われるのはもちろん大切ですが、それが目的とならないようにしましょう。あくまでも対話や関わりを通して感じたことを、客観的・医学的視点を取り入れながらチーム内で共通認識・共通了解を得るために用います。
苦しみを受け止める力
鎮静を希望する人が、何に苦しみ、どうありたいと思っているのか。眠りたいと思うほどつらい、その苦しみを受け止め、認めること。
医療者であっても、時には逃げたくなるほど、苦しみを受け止めることに勇気がいる場合があります。何もできない、何も言ってあげられない。そんな自分の気持ちが見透かされそうに感じてしまい、どうふるまえばいいのかも分からなくなってしまいます。
それでも、「逃げずに居続けること」それだけでいいのです。
「その場に…いまここに、共に居続けること」
それは、その瞬間のあなたにしかできないことであり、誰にでもできることではありません。
鎮静について学びを深めているときには、「苦しみを受け止め、認める」「逃げたくなる自分でさえ、認めてあげる」、そんな自分になれるチャンスなのかもしれません。