アドバンスケアプランニング(ACP)とは ~人生会議~
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高度医療の普及や価値観の多様化、情報の氾濫により、医療・ケアにおける適切な意思決定支援の重要性が高まっています。その対応策として、人生の最終段階まで個人の思いを尊重しつつ、意思決定を支援する アドバンスケアプランニング(Advance Care Planning:ACP) が注目されるようになりました。日本では「人生会議」と呼ばれています。
ACPとは
アドバンスケアプランニングとは、「将来の自己決定能力の低下に備えて、今後の治療・療養についての気がかりや価値観を、患者・家族と医療従事者が共有し、ケアを計画する包括的なプロセス」と定義されています。
日本医師会では、ACPの目的として「患者さんの意思を尊重した医療及びケアを提供し、尊厳ある生き方を実現すること」と示しています。
生命倫理4原則
アドバンスケアプランニングの考え方は、トム・L・ビーチャムとジェイムズ・F・チルドレスが1979年に提唱した、「生命倫理4原則」が基盤になっています。医療において倫理的な問題に直面したとき、医療従事者はどのように対処すべきか、その指針となるものです。
| 自律性の尊重 (respect for autonomy) | 患者さん本人の意思や決定を尊重し、それを制限・妨害しないこと |
| 無危害 (nonmaleficence) | 患者さんに危害を及ぼさない、または危害を予防すること |
| 善行 (beneficence) | 患者さんにとっての最善を尽くすこと |
| 公正 (justice) | 常に患者さんを公平に扱い、限りある医療資源を平等に提供すること |
医療における倫理では、「医学的に正しいこと」が「患者・家族にとって正しいこと」とならないことがあります。
患者・家族の気持ちを最大限尊重しながら、医療者の専門性を活かした話し合いが行われることが倫理的問題の解決の一歩となります。
実際に話し合う内容
話し合う内容に決まりはありませんが、患者・家族が納得する最期を迎えられるように話を引き出していくことが大切です。
患者の状況
・家族構成や暮らしぶり
・健康状態について気になる点
・他にかかっている医療機関(治療内容)や介護保険サービスの利用
患者が大切にしたい価値観や人生観、希望など
・これまでの暮らしで大切にしてきたこと
・これからどのように生きたいか
・これから経験したいこと
・家族など大切な人に伝えておきたいこと
・最期の時間をどこで、誰と、どのように過ごしたいか
・意思決定のプロセスに参加してくれる人と、代わりに意思決定してくれる人はいるか
医療及びケアについての希望
「可能な限り生きたい」や「痛みや苦しみを少しでも和らげたい」などの希望が考えられますが、病状なども含め状況は様々です。医療関係者より、適切な情報提供と説明がなされた上で、患者やその家族等に話し合いを重ねていくことが重要です。
アドバンスケアプランニングの留意点
意思決定支援における基本的なコミュニケーションスキルや、内容を理解しておくことは非常に重要です。
相談相手は医療者だけではない
ACPは医師や看護師だけが行うものではなく、患者・家族が最も信頼している人が適任者と言えます。例えば、それは医療従事者に限らず、関わる頻度が多い介護従事者や家族となるかもしれません。
患者への聞きにくい質問の尋ね方
「○○さん、万が一この治療を続けられなくなった場合、どのようにしたいとか考えたことがありますか?」といったように、「もしも」「万が一」という言葉を用いて問いかけてみましょう。
このとき、患者やご家族の表情が曇ったり、「そんな縁起でもないことを」「考えたくない」といった否定的な反応があれば、それ以上は深追いせず質問を終了します。
一方で、ご本人が思いを表出された場合には、まずその気持ちに十分に共感することが大切です。ただし会話の中では医学的な知識が求められる場面も少なくありません。不確実な情報を伝えると不安を助長してしまうため、チームで情報を共有し、職域を超える内容については適切な担当者が対応できるように調整しましょう。
代理意思決定人
ACPを進める際には、患者と医療・介護者だけでなく、家族も一緒に参加することが大切です。実際に患者の意思決定能力が低下した場合には、代理意思決定人や家族が患者の意向を代わりに表明し、医療者と共にさまざまな選択を行うことになります。そのため、代理意思決定人や家族も意思決定のプロセスに加わることで、患者の思いをより深く理解できるとともに、自らの負担や悲嘆を軽減できる可能性があります。
ただし、患者が望んでいた内容と、実際の状況が大きく異なる場合には、家族としての意向が優先されることも少なくありません。そのため、本人の意思をどの程度重視するのかについても、事前にしっかり話し合っておくことが重要です。
意思決定支援の具体例
治療が困難、治療効果が得られなくなったとき
・「治療をしたために、かえってお身体が辛くなったり、辛い症状が出たりしてしまう場合には、○○さんがしたいことがかえってできなくなっているかもしれません。今、○○さんが大切にしていること、したいと思っていることはどんなことですか?そのために、今何が必要か一緒に考えていきましょう」
・「治療を続けた場合、治療をしなかった場合と、どちらを選んでも違う苦労を抱えると思います。なので、今、お辛い時間ですが時間をかけて考えて決定することが大切です。なぜなら、あの時も違う選択をしていたら…と思った時に、『そうだ、あの時一生懸命たくさん迷って答えを出したのだからこれでよかった』と思うことができるからです。だから今、たくさん迷っていいのです」
抗がん治療を中止する
・「これまで治療をどうしようか考えながら、頑張ってきましたね。抗がん剤だけが治療ではありません。抗がん剤による痛みや苦しみを緩和していくことも体調よく過ごすことにつながり、○○さんがやりたい△△を行えるかもしれません。」
・「治療を中止することは○○さんにとって不安なことですよね。もし、先生の説明を聞いてなにか治療に対して思う気持ちがあるのであれば、違う医師からの見解を聞いてみることも可能です。セカンドオピニオンと言いますが、これを受けることによって主治医の○○先生との関係性に影響はありません」
療養環境の調整
・「今は病院に通院することが可能ですが、今後、体調によっては通院することが辛くなることもあります。そのようなときに○○さんはできるだけ入院せずに自宅で過ごしたいとお考えですか?それとも体調に応じて入院したいとお考えですか?答えは今すぐではなくても、これからのことを考えておくとは安心材料になります。」
・「これから、どのように暮らしたいか、生活したいかということを一緒に考えてみませんか。ご希望の対応へは様々な準備が必要な場合もあるため、どのような医療機関やサービスがあるのかを一緒に考えてみませんか」
意思決定支援で大切なこと
人生の最終段階における意思決定で大切なことは、大きく以下の3つです。
・患者・家族の思いに寄り 添いたいという思い
・専門性を活かした知識
・患者・家族を中心としたチームの確立
現在の医療現場では、在院日数の短縮に伴い、患者・家族の意向を確認する間もなく、病院側の意向を中心に意思決定を行うことが少なくありません。患者・家族にとって何が最善かを考え、患者の些細な思いの変化を見逃さないことが重要です。
アドバンス・ディレクティブ(Advance Directive:事前指示)との違い
類似概念として、「アドバンスディレクティブ」があります。
アドバンスディレクティブとは、「従来からの、患者あるいは健常者が将来判断能力を失ったときにみずからに行われる医療行為に対する意向を前もって示すこと」と定義されています。
一見、ACP似ているように感じますが、異なる意味合いで使用されるため、分けて考える必要があります。
まとめ
いかがだったでしょうか。ACPは患者さんや家族の思いを尊重し、最期まで自分らしく生きるための大切な取り組みです。安心して相談してもらえる存在となれるよう、日々の学びを積み重ねながら、寄り添った実践を続けていきましょう。
参考
1)厚生労働省. 人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(改訂版). 厚生労働省. 2017.
2)マイナビ看護師. 人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)とは?看護師が知っておきたい基礎知識. マイナビ看護師. 2025.
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