終末期(ターミナル期)におけるタール便|医療者が知っておくべき症状と対応
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・終末期にタール便が出現するのはなぜか
・終末期における観察・ケアのポイント
・多職種連携の重要性
終末期にタール便が出現するのはなぜか
終末期(ターミナル期)の患者において、「タール便(melena)」はしばしば観察される症状のひとつです。黒色で粘稠、独特の悪臭を伴う便は、患者本人や家族に強い衝撃を与えるだけでなく、医療者にとっても対応の判断を迫られる場面となります。ここでは、終末期におけるタール便の意味と看護の実際を整理しています。
ターミナル期にタール便が出現する背景
タール便は、主に上部消化管出血によって生じます。胃や十二指腸からの出血が消化酵素で分解されることで、黒色で粘稠な便となります。
終末期には、腫瘍の進展や粘膜の脆弱化、凝固機能の低下などにより出血が起こりやすく、タール便が出現することがあります。特に、胃がん・食道がん・肝転移による食道静脈瘤破裂などが背景として多く見られます。
終末期におけるタール便の意味と臨床的意義
一般的にタール便が確認された場合は、出血部位の特定と止血を目的に検査・治療を行います。しかし、終末期においては延命よりも苦痛緩和が優先されるため、内視鏡検査や輸血などの侵襲的対応は行わない場合が多いのが現実です。
そのため、タール便は単に「出血のサイン」ではなく、苦痛・不快感・家族への心理的影響を伴う症状として捉えることが大切です。 ただし、患者や家族によっては出血部位の特定や止血を希望されることもあるため、必ず意向を確認しどこまでの対応をするのか十分に話し合う必要があります。
終末期における観察・ケアのポイント
観察の目的は、治療方針を決定するというよりも苦痛緩和に直結するケアにつなげることです。
終末期にタール便がみられた場合、以下の点を観察します。
便の性状(色、量、臭気)
患者の全身状態(顔色、倦怠感、血圧・脈拍の変化)
意識レベルの変化(出血性ショックや貧血による影響)
終末期のタール便に対するケア
終末期におけるタール便は苦痛を和らげることが重要です。患者や家族の不安の軽減に働きかけることも苦痛の緩和につながります。
身体的ケア
・臭気対策:換気や消臭剤の使用
・清潔保持:リネン・下着交換で快適性を確保
・安楽な体位調整:倦怠感や不安を軽減
・鎮痛薬・鎮静薬の活用:症状コントロール
心理的サポート
タール便の出現は「死が近いのではないか」という不安を患者に与える。
医療者は安心感を与える声かけや寄り添いを行い、尊厳を守るケアを意識する。
家族への支援
家族にとって、タール便の色や臭いは強い衝撃となるため以下の点に留意
・症状の背景を説明する
・苦痛を緩和できるようなケアを優先することを伝える
・不安や悲嘆に寄り添う
多職種連携の重要性
終末期のタール便対応は、看護師だけでは完結しません。医師や薬剤師、介護士、セラピスト等と連携して一貫した方針を共有することが大切です。観察や対応したことなどを多職種で情報共有を行います。特に家族には統一した説明や対応を行い、支えることで、安心感を与えることができます。
まとめ
終末期におけるタール便は、消化管出血のサインであると同時に患者や家族に心理的負担をもたらす症状です。
医療者は検査や治療を優先するのではなく、苦痛の緩和・清潔保持・心理的支援・家族サポートを中心としたケアを提供することが求められます。患者・家族の意向を確認しながら、寄り添いサポートしていく姿勢が必要です。
参考文献
医療情報科学研究所 編集,病気がみえる vol.1 消化器 第5版,メディックディア,2016,p.22-37,p.102-107
高木永子 監修,向井直人 編集,看護過程に沿った対症看護 第4版病態生理と看護のポイント,学研メディカル秀潤社,2012,p.30-42
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