経管栄養(経腸栄養)の種類を徹底解説|経鼻胃管・胃瘻・栄養剤の使い分け
- 目次
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- 経管栄養(経腸栄養)とは
- 経管栄養実施時のポイント
- 経管栄養時の薬剤投与の工夫
- 患者・家族への支援
経管栄養(経腸栄養)とは
経管栄養(経腸栄養)とは、口から食事を摂れない患者に対して、チューブを通じて消化管へ直接栄養や水分を投与する方法です。嚥下障害や意識障害、重度の摂食障害などで経口摂取が困難な場合に行われます。静脈栄養に比べて腸粘膜の萎縮を予防し、粘膜バリア機能や消化管機能を維持しやすく、感染リスクも低いのが特徴です。
例)脳梗塞後の嚥下障害患者では、誤嚥性肺炎を予防するために短期的に経鼻胃管が用いられる
例)ALS患者では、進行に伴い経口摂取が困難となり、在宅での胃瘻栄養による長期管理が行われる
このように、急性期から慢性期、在宅療養まで幅広い場面で活用され、患者のQOL(生活の質)維持に直結する重要な栄養管理法です。
経管栄養の種類【投与経路別】
経路別の比較表
| 種類 | 使用期間 | 主なメリット | 注意点・デメリット |
| 経鼻胃管 | 短期 (2〜4週間程度) | 挿入が容易、急性期で広く使用 | 鼻咽頭の違和感、誤嚥リスク、自己抜去 |
| 経鼻腸管(空腸) | 短期〜中期 | 胃排出遅延・誤嚥リスクに対応可 | 留置確認が煩雑、管理負担あり |
| 胃瘻(PEG) | 長期 (1か月以上) | 在宅経管栄養が可能、栄養状態維持 | 瘻孔感染、肉芽形成、自己抜去リスク |
| 腸瘻(空腸瘻など) | 長期 | 高度誤嚥例や胃利用困難例に有効 | 外科的侵襲が必要、適応判断に注意 |
各経管栄養方法の使い分けは以下のようなものが挙げられます。
経鼻胃管栄養
もっとも一般的な方法で、短期利用に適する。
症例:脳出血後に意識レベルが低下した患者で、経口再開までの一時的な栄養補給に使用した
経鼻腸管栄養(空腸)
胃排出遅延や逆流、誤嚥リスクが高い場合に有効
症例:誤嚥性肺炎を繰り返す高齢患者に、空腸までチューブを留置した
胃瘻(PEG)
長期栄養や在宅管理に適した方法
症例:ALS患者が嚥下困難となり、在宅での栄養管理のため胃瘻を造設した
腸瘻(空腸瘻・十二指腸瘻)
胃を利用できない場合に選択される
症例:胃切除後で経口摂取が困難な患者に、空腸瘻から栄養投与を行う
経管栄養の種類【栄養剤別】
栄養剤の比較表
| 種類 | 特徴 | 主な適応 | 注意点 |
| 半消化態栄養剤 | ペプチド・部分分解糖質/脂質を含む | 標準的に使用、消化吸収能が保たれている患者 | 消化不良や下痢に注意 |
| 成分栄養剤(消化態) | アミノ酸・単糖など低分子組成 | 膵炎、短腸症候群、吸収障害 | 高浸透圧による下痢・脱水リスク |
| 特殊組成栄養剤 | 疾患ごとに調整(腎不全・肝不全・糖尿病など) | 特定疾患に応じた代謝管理 | 不適応で栄養不均衡の恐れ |
各経管栄養剤は以下のように使い分けられます。
半消化態栄養剤
標準的に使用されるタイプ
症例:脳梗塞後で嚥下障害があり、消化機能が保たれている患者に使用した
成分栄養剤(消化態栄養剤)
消化吸収障害に有効
症例:慢性膵炎で脂肪吸収不良がある患者に成分栄養剤を選択する
特殊組成栄養剤
疾患別に調整された栄養剤
症例:腎不全患者に、カリウム・リンが制限された特殊組成栄養剤を使用した
経管栄養の選択ポイント
投与期間:短期なら経鼻胃管、長期なら胃瘻や腸瘻を検討する
誤嚥リスク:高ければ経鼻腸管や腸瘻を検討する
消化吸収能:半消化態を基本に、必要に応じて成分・特殊組成へ切り替えを行う
在宅移行:管理の容易さ、家族の負担、QOLを考慮する
経管栄養実施時のポイント
経管栄養は「種類の選択」だけでなく「安全な実施とケア」が重要です。医療者は投与前・投与中・投与後の観察や合併症予防、患者家族支援に大きな役割を担います。
投与前の確認
チューブの位置確認:胃液吸引やpH測定を行い、チューブの先が胃部にあるかどうか確認する。必要時はX線撮影で位置を確認する。
栄養剤の準備:種類・量・濃度・温度を確認し、室温(体温程度?)に調整する
体位:逆流や誤嚥を防ぐために頭部挙上30〜45度を徹底する
固定部位の観察:皮膚の発赤・びらん・圧迫予防
感染対策:手指衛生・器具の清潔保持
症例:PEG造設直後の患者でチューブ固定が不十分 なため、投与中に自己抜去してしまった
投与中の観察
全身状態:呼吸・SpO₂・血圧・脈拍の変化
消化器症状:嘔気・嘔吐・下痢・便秘・腹部膨満
注入速度:急速投与は症状や誤嚥リスク増大するためポンプ管理が望ましい
チューブトラブル:屈曲・閉塞・リーク・逆流の有無
栄養剤残量確認:沈殿・変色の有無
症例:胃瘻から急速投与した患者で下痢と膨満 感を訴えたが、投与速度調整で改善した
投与後のケア
水でのフラッシュを行うと、10〜30mlで閉塞予防になる。薬剤投与後も必ず行う。
体位保持:30分以上は逆流・誤嚥予防のため頭部挙上にする
口腔ケア:経鼻胃管では特に必須。肺炎予防の要となる
皮膚・瘻孔部の観察:発赤・滲出液・肉芽形成・感染兆候を確認する
器具管理:バッグは24時間で交換、チューブは定期的に更新する
症例:ALS患者が胃瘻部のケア不足 から瘻孔感染を発症してしまった
合併症予防のポイント
誤嚥性肺炎:体位・速度・口腔ケアの徹底
閉塞:水でのフラッシュ、薬剤の適切な処理を行う
下痢・便秘:投与速度・濃度の調整、栄養剤の変更を行う
皮膚トラブル:チューブの固定方法や向きを変える・スキンケアを丁寧に行う
経管栄養時の薬剤投与の工夫
経管栄養ルートから薬剤を投与する場合、閉塞・相互作用・吸収不良のリスクがあるため工夫が必要です。
投与前の準備
・徐放錠・腸溶錠は粉砕不可のため代替薬を確認する
・粉砕や顆粒は少量の水で懸濁する
・単剤ごとに投与する
投与時
・栄養剤と同時投与は避ける
・各薬剤の後に10〜20mlの水でフラッシュする
・複数の薬を混ぜない
投与後
・チューブ内残留を確認
・栄養再開のタイミングを薬剤ごとに調整
・副作用の観察を行う
症例:抗菌薬投与後に下痢 が見られたため栄養剤との間隔を調整し軽快に至った
簡易懸濁法とは
簡易懸濁法は、錠剤やカプセルを粉砕せず、40〜55℃の温湯に浸して崩壊・懸濁させる方法です。
メリット
・薬効の安定性を保持
・飛散やロスがなく安全
・チューブ閉塞を減らせる
・在宅でも実践可能
注意点
・腸溶錠・徐放錠などは適応外
・温度は40〜55℃を厳守する
・薬剤ごとに個別懸濁が必要
症例:粉砕投与でチューブの閉塞を繰り返した患者 → 簡易懸濁法へ変更しトラブルが激減した
患者・家族への支援
在宅での生活などになれば、患者や家族が経管栄養の投与を実施することもあります。手技やトラブル時の対応など不安に思う人も多くいるでしょう。少しでも不安の軽減ができるような関わりを心がけましょう。
・投与方法や器具管理を丁寧に説明し、在宅移行に備える
・生活リズムに合わせた投与計画を一緒に立案
・家族の不安軽減のため訪問看護との連携を強化
症例:在宅PEG管理中の家族が投与速度に不安 → 看護師がポンプ使用を指導し安定継続
まとめ
経管栄養は「急性期の一時的な栄養補給」から「在宅での長期管理」まで、幅広く活用されます。患者の病態や背景によって経路と栄養剤を適切に選択することが、安全で質の高いケアに直結します。また、在宅に移行する際には患者や家族の不安に寄り添い、説明する内容を検討するなどが必要です。適切な経管栄養を実施し、患者や家族がその人らしく生き抜ける環境づくりをしていきましょう。
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