死前喘鳴に対するケアのあり方|一般社団法人日本終末期ケア協会

死前喘鳴に対するケアのあり方

2020.6.16 JTCAゼミ

目次

死前喘鳴とは

死前喘鳴とは、死亡直前(死亡数時間前から数日前)に生じる症状で、気道内分泌物の貯留により生じる喘鳴です。
死前喘鳴に対するケアについては、現在のところ十分なエビデンスが得られていません。


見守ることがつらく感じる喘鳴

・喘鳴の音が大きい場合
・喘鳴の持続時間が長い場合
などでは、家族はそばで見守ることがつらくなります。そのため、家族から「なんとかならないでしょうか」という相談を受けることが多くなります。
看取り期で本人の意識レベルが低下していても、苦しんでいるようにみえるのです。それは家族の心理状態として当然の反応であり、まず家族が今どのように感じているのか確認しましょう。


死前喘鳴のケアのポイント

家族の死前喘鳴に対する認識をアセスメントする

ご家族が喘鳴をどのように理解しているかを確認しましょう。
喘鳴について理解できるように説明することが大切です。
けっして溺れているわけではないこと、意識レベルが低下している患者は、家族が思っているほど苦痛を感じていないことが多いなど、患者が苦しんでいるかどうかの見極め(手を握りしめる、眉間にしわを寄せるなど)が大切であることを教えることが重要です。

家族への思いの確認におけるコミュニケーション

ではご家族へどのように説明し、思いを確認すればいいでしょうか。
「このゴロゴロした音は、喘鳴といいます。多くの方に見られる症状の一つで、お別れが近くなった時にみられる自然な変化です。」
「唾液を飲み込む力がなくなるために、唾液がたまってしまいます。そのためにゴロゴロという音がします。」
(意識レベルが低下している場合は)「ご本人は、私たちが思うほど苦痛は感じていませんので安心してください。」
「苦しい時には顔をしかめることが増えるなどの変化があります。それを一緒にみていきましょう」

吸引の実施について家族とよく相談する

一律に吸引を【する】か【しない】かが重要なのではなく、患者の状態や家族の認識などに応じて個別に対応することが大切です。患者の状態によっては、吸引自体が呼吸状態を不安定にさせる処置になる可能性があります。また、以前、吸引を強く拒否していた患者もおられるでしょう。
重要なことは、「吸引をするかどうか」ではなく、それを家族と相談することです。呼吸状態が不安定で吸引が難しいが、家族が吸引を希望する場合もあります。そんな時には、その状況を説明したうえで、咽頭のみ吸引を行うこともあります。「痰がとれたかどうか」ではなく、家族にとっては「気持ちを分かってもらえた」「できることをしてもらえた」という気持ちになり、それが家族ケアに繋がります。吸引以外にできるケアを伝え、それを家族と相談しながら行うことも重要です。

吸引以外にもできるケアはたくさんある

基本的なケアを丁寧に行うことで、患者を見守る家族へのケアにもなります。


【体位変換】側臥位や頭の位置を高くすることで喘鳴が小さくなることがあります。
【輸液の減少】輸液量を減らすことで喘鳴が改善することもあるので、医師との相談が必要です。
【口腔ケア】唾液の貯留により口腔内の臭いが気になることがあります。口腔ケアをこまめに行う、部屋にアロマをたく、換気をするなどの対策で家族が傍で付き添いやすい環境を整えます。
【ケア従事者の関わり方】家族だけでみているとつらく感じる喘鳴も、定期的にケア従事者が一緒に確認をし、このままで大丈夫と言ってもらえるととても安心します。『家族と一緒にみていくこと・いつでも気になることが話せる関係性』、これが家族を支える大きな力となります。


死前喘鳴に対するエビデンスは現在のところ十分なエビデンスが得られていませんが、死前喘鳴に直面し、苦痛や不安を感じている家族に、苦痛緩和を行う私たちの役割は非常に大切となってきます。