終末期と輸液療法について|一般社団法人日本終末期ケア協会

終末期と輸液療法について

2020.7.13 JTCAゼミ

目次

輸液療法のメリット・デメリット

輸液療法は日常診療において欠くことのできない治療法である。輸液を分類すると、電解質輸液、栄養輸液とその他(血漿増量剤等)の3つに大別することができる。急性期の病的な状態に対する輸液は効果が大きく期待できるが、終末期の患者に対する輸液は必ずしもそうとは限らない。がんの末期などで体の中の細胞が水分を取り込めない状態が生じやすく、輸液をおこなうことで浮腫や胸腹水、気道分泌物の増加などが起こり、患者への負担が大きくなる可能性もある。輸液をおこなうことにより、患者の治療目標へどう影響するのかを包括的に考え、輸液のメリット・デメリットのバランスを考慮し、治療目標を決定していくことが重要である。
例えば、生命予後1か月程度の消化管狭窄、閉鎖などにより十分な経口摂取が出来ない終末期がん患者に対し、総合的QOL改善の目的として、標準的な体格の患者(身長160~170㎝、体重50~60㎏、60歳代)であれば、500~1000ml/日の輸液が最も推奨されている。また、がんの発生部位により経口摂取ができない患者に対し、活動量にあわせた輸液をおこなうことで、身体が衰弱するのを改善することができるといわれている。他にも、適切な輸液療法は、脱水や薬剤性によるせん妄に対して、蓄積した薬剤の排出や電解質バランスの補正などを通じて、症状が緩和され、QOLの改善につながることもある。

輸液投与は静脈?皮下?

輸液療法には静脈ではなく、皮下に輸液をおこなう方法もある。皮下輸液は中心静脈や末梢静脈に比べ、合併症や感染、出血のリスクが少なく、終末期の患者に対し、安全で有効な水分補給方法であると考えられる。しかし、皮下輸液は高カロリー輸液のような栄養輸液をおこなうことができない。水分と電解質のみの輸液だが、血管確保が困難な場合や不快による自己抜針がみられる場合、継続的かつ穏やかに水分・電解質を補給したい場合には皮下輸液の適応を検討する場合もある。

患者・家族への精神的ケアも重要

患者・家族が「食べられないから点滴をしてほしい」という気持ちを持つことは当然であり、「点滴をしてもらえている」ことで安心感につながることは多い。輸液のメリット・デメリットを患者・家族に伝え、また、輸液はいつでも中止、再開することができることも説明することも重要である。
輸液は単に「食べられないからする」、「終末期だからしない」ではなく、患者・家族の精神的側面や価値観に基づいた全般的な治療の目標が一致していることが大切である。そのため、医師が単独で決定するのではなく、患者・家族と相談し、治療を実施していくことが重要である。また、輸液をおこなう場合、『期待された効果が得られているか』を定期的に評価し、必要に応じて方向性を修正していくことも重要である。

参考文献 終末期におけるガイドライン