悪液質のケア~運動療法~|一般社団法人日本終末期ケア協会

悪液質のケア~運動療法~

2020.8.27 JTCAゼミ

目次

悪液質の3つのステージ

悪液質には、治療的介入が可能な早期から、緩和ケアの対象となる終末期までのステージがある。悪液質を早期発見することは、ADLやQOLを維持するための治療的介入が可能になる場合がある。しかし、進行した悪液質は、薬剤、運動、栄養、そのほかの介入による改善が困難な場合も多い。悪液質には「前悪液質」、「悪液質」、「不応性悪液質」の3つのステージに分かれているが、それぞれ介入方法も異なる。
「悪液質に対するガイドライン(EPCRCガイドライン)」では、「前悪液質」「悪液質」は薬剤、運動、栄養、心理療法など早期介入、「不応性悪液質」は緩和的治療が主体と提唱している。
がん患者の不応性悪液質の場合、「抗がん剤治療に抵抗性の高度、あるいは急速に進行するがんのため、不可逆的な栄養障害を生じている悪液質の状態」とされ、①悪液質の定義を満たす、②予後3か月未満、③パフォーマンスステータス(PS、全身状態の指標の一つ)低下、④抗がん剤治療に抵抗性、⑤異化亢進状態、⑥人工栄養投与を適さない、以上6項目が定義されている。不応性悪液質では、QOLの維持を目標として、患者の負担がない範囲で多方面から介入することが重要である。





悪液質の治療的介入~運動療法の意義~

悪液質の治療にはできるだけ早期から薬物治療・運動療法・栄養療法の集学的介入が望ましい。特にがん患者は、様々な要因により活動性が低下しており、運動不足による骨格筋萎縮を生じやすい。骨格筋萎縮により筋肉量が減少することで、全身倦怠感を生じやすく、さらに活動性が低下するという悪循環をもたらす。
前悪液質の段階から集学的介入により一定の筋肉量を維持すれば、不応性悪液質へと移行していくことを抑制できると推測できる。そうすることで、予後半年で動けない食べられない状態ではなく、予後1か月まで食べて動くことができる状態となる可能性がある。この期間の違いは、患者と家族のQOLに大きな影響を与えることは間違いない。悪液質の治療において、リハビリ・栄養指導はQOLに直結する重要な役割を持っているのである。


運動療法の実際

運動にも様々な種類があるが、その中でも前悪液質・悪液質の場合、抗炎症作用がある持久性トレーニングや低負荷のレジスタンストレーニング(筋力トレーニング)などの運動がよいといわれている。ウォーキングなどの軽い運動であれば比較的取り入れやすい。
しかし、患者の栄養状態や全身状態によっては、持久性トレーニングや低負荷のレジスタンストレーニングを行うことで状態が悪化し、逆に筋肉量や持久力の低下につながる場合がある。
不応性悪液質の場合の運動療法は、緩和的治療の一環として症状緩和やQOL維持を目標にした機能訓練(関節可動域訓練、呼吸訓練、座位・立位訓練、ADL訓練、短距離・低負荷の歩行訓練など)がおこなわれる。


悪液質の介入には精神的サポートも重要

体力や筋力の衰えに直面すると、「リハビリをして体力や筋力をつけないといけない」と思う患者も多いのではないだろうか。しかし、全身状態にあった運動療法を行わなければ、逆に状態悪化や苦痛症状の増悪につながってしまうことも知っておかなければならない。運動療法を行う上で、患者の状態を把握するだけでなく、患者・家族の思いや訴えを傾聴し、精神的サポートを行っていくことも重要である。